Netflix出演者がまた起訴 暴かれる動物への虐待
米国のテレビ番組「タイガーキング」の登場人物で、サウスカロライナ州にある人気の私設動物園の所有者バガバン・"ドク"・アントル氏が、ライオンの違法取引や虐待など15の罪によりバージニア州で起訴された。
2020年3月に配信が始まった動画配信サービス「Netflix(ネットフリックス)」のドキュメンタリーショー番組「タイガーキング:ブリーダーは虎より強者?!」では、主役の「ジョー・エキゾチック」ことジョゼフ・マルドナド=パッセージ氏が悪名をとどろかせた。
今回起訴されたアントル氏はそのずっと前から、自身が所有する動物園「マートルビーチ・サファリ」の顔として有名だった。氏が37年前に設立し、3人の恋人と自分の子どもたちとともに経営するこの施設は、赤ちゃんトラを抱けることで以前からセレブに人気だった。アントル氏や子どもたちの動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」やインスタグラムには数百万人のフォロワーがいる。
バージニア州司法長官事務局は10月8日、アントル氏を重罪にあたる野生動物違法取引1件および野生動物違法取引の共謀1件、軽犯罪にあたる絶滅危惧種法(ESA)違反の共謀4件および動物虐待9件で起訴した。
今回の起訴は、アントル氏とキース・ウィルソン氏の間で行われたライオンの違法な売買と輸送を、数カ月にわたり捜査し続けた結果だ。ウィルソン氏はバージニア州ウィンチェスターにある「ウィルソンズ・ワイルドアニマルパーク」の所有者であり、アントル氏と同じ罪に加え、4件の共謀罪で起訴されている(ウィルソン氏はすでに、2019年11月に行われた強制捜査に関連して46件の動物虐待で訴えられ、飼育していた動物のうち119頭が押収されていた)。
ライオンは絶滅危惧種法で保護されている種であり、州境を越えて売買することは違法だ。
アントル氏の娘2人も、動物虐待と絶滅危惧種法違反の罪で起訴されている。今回の件についてアントル氏、マートルビーチ・サファリ、ウィルソン氏にコメントを求めたが、回答はなかった。
一方、タイガーキングの主役、「ジョー・エキゾチック」は、殺人の共謀およびトラ殺害の罪で22年間の服役中だ。タイガーキングに出演した他の私設動物園の所有者らも、同様に罪に問われている。ジェフ・ロウ氏は動物を一般公開する免許をはく奪された。ティム・スターク氏は、動物虐待および絶滅危惧種法違反で有罪判決を受けた(さらに10月8日、連邦当局から動物を隠そうとした疑いで、数週間にわたる逃亡の末に逮捕された)。
「ロードサイド動物園」問題がまた1つ明るみに
タイガーキングは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)で外出禁止令が出され始めた3月に配信が開始され、たちまち爆発的な人気を博した。だが評論家らは、この番組が「ロードサイド・ズー」と呼ばれる私設動物園の悲惨な現実に目をつぶっていると指摘していた。
沿道などに作られるこの類いの動物園の多くでは、客が赤ちゃんトラを抱いてかわいがれるように、トラの繁殖が頻繁に繰り返される。適切な放飼場やエサ、獣医による世話が与えられていないことも多い。
「タイガーキングで見たあらゆることが、今回の件で1つの輪につながりました」と米動物園水族館協会のダニエル・アッシュ最高経営責任者(CEO)は述べる。同協会は米国内で200以上の動物園を認定しているが、マートルビーチ・サファリのように動物の子どもをなでて楽しむアトラクションのあるところは含まれていない。
「(番組に出てきた)どう見てもひどいやり方は本当だったのです。ティム・スターク氏、ジェフ・ロウ氏、そして今度はアントル氏と、タイガーキングのスターが動物を虐待していたことが次々に暴かれました」。なおアッシュ氏は、野生動物の不正取引に関する法律を執行する米魚類野生生物局の前局長でもある。
アントル氏がソーシャルメディアに投稿した動画には、氏と家族がトラと一緒にプールで泳いだり、チンパンジーと遊んだりする様子が写っている。起訴状に書かれた虐待の罪とは実に対照的だ。そのうちの3件では、アントル氏が19年の7月と8月に故意にライオンの子どもに対して虐待を続け、「拷問または不必要な苦痛」を与えたとされている。
州を越えた異例の捜査
事件を捜査したのは、バージニア州の動物法係。動物福祉および虐待事件を専門に調査する、米国初の州司法長官直属の部署だ。これまでに同係は、解剖、研修、相談も含め1714件の動物に関連する事案を扱っている。「15年に動物保護法課を設立したときには、これほどの成果が上がるとは想像もできませんでした」と、バージニア州司法長官のマーク・ヘリング氏はナショナル ジオグラフィックに宛てたメールで述べている。
「動物を守るために法執行機関は何をすべきかという優れた例になっています」と評価するのは、米オレゴン州ポートランドにあるルイス&クラーク・カレッジ法科大学院の動物法訴訟教室を主宰するデルシアンナ・ウィンダース氏だ。
氏は、連邦政府機関として動物福祉法執行の任務を負うはずの農務省が、マートルビーチ・サファリについて「問題なし」とする検査報告書を19年11月と20年1月に発行した点を指摘する。バージニア州当局がその間の19年12月に、アントル氏起訴の証拠を得るための捜査の一環として、同サファリの捜索を行ったにもかかわらずだ。
ウィンダース氏によれば、州が動物違法取引事件の捜査と起訴を行うことはまれだ。ましてや州を越えて捜査することはめったにない。だがバージニア州の捜査官は、同州でのウィルソン氏の行為をサウスカロライナ州にあるアントル氏の動物園に結び付けた。
ただしバージニア州の管轄権が及ぶのは、同州内での活動に限られる。今後、アントル氏によるマートルビーチ・サファリの運営についてさらに捜査するかどうかはサウスカロライナ州の当局次第であり、また、動物福祉法および連邦の野生動物不正取引に関する法律の違反について捜査を続けるかは連邦当局次第だ。
アントル氏は、野生のトラの保護のための資金集めを名目とする財団「希少種基金」を運営している。最近になって、イメージチェンジを目指して新たなリアリティショーに主演することを発表した。10月1日付で米娯楽誌「ピープル」に掲載された記事では、「米国内に深刻に助けを必要としているトラがいるという誤った分析がされているが、本当に救う必要があるのは野生のトラだ」と語っている。
米動物園水族館協会のアッシュ氏は、ロードサイド・ズーの捜査は極めて重要だと強調する。
「ああいった施設が存在するのは、行く人がいるからです」と氏は言い、動物が見たければ、米国内には認可された動物園がいくらでもあると指摘する。そして、魚類野生生物局で違法な動物製品を観光客が土産として購入しないよう取り組んでいたときに使用していたスローガンを紹介して締めくくった。「よく知ろう、正しく買おう」
(文 NATASHA DALY、訳 山内百合子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年10月14日付]
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