旅して免疫力を高める ウェルネスツーリズムのすすめ
新型コロナウイルス禍で、「ウェルネスツーリズム」に注目が集まっている。感染予防には3密回避はもちろん、免疫力や基礎体力のアップが欠かせない。旅先でなら、日常とはひと味違う気分も手伝って、そうした効果がより一層期待できるのでは、という理由からだ。運動や食事、ヨガや温泉などを組み合わせ、その効果を実感できるよう可視化するユニークな取り組みなど最新の事情を取材した。
従来のヘルスツーリズムには"効果が見えにくい"という課題や、医療事業者の企画が中心だったためエンターテイメント性に欠け、面白くない、といった難点があった。ウェルネスツーリズムはこうした課題解消を目指す新たな旅のスタイルという位置づけだ。静岡市内の竹屋旅館では「観光」と「健康」、「IT(情報技術)」をキーワードに、清水駅近くの「ホテルクエスト清水」を舞台に新たな取り組みを打ち出しており、中小企業庁の「異分野連携新事業分野開拓計画」にも認定されている。
ポイントは「可視化」「エンタメ性」「食の魅力(メディシェフ)」「Otono(場所連動型音声ガイド)」の4つ。モニターツアー体験では、まず手首に着ける活動量計や集中力計測メガネ(眼電位センサーなどで計測)を貸与して、スマートフォンのアプリと同期。効果を確認できるようにした点がこれまでにない試みで、実にユニークといえる。
たとえば、水上バスにレンタサイクルを載せて対岸の三保半島の船着き場まで行き、Otonoの観光ガイドを聞きながらサイクリングをして世界文化遺産の構成資産、三保松原などを訪れる。ホテルでの食事は、糖尿病対策の健康食から発展した医食の専門家「メディシェフ」による駿河湾レシピだ。
地元・駿河の食材を中心にデザートまで入ったイタリアンのフルコースでも695kcalの低カロリーと低糖質を実現している。メインは魚と肉の2品に低糖質パスタまで出て、どれもおいしく、そのカロリーを聞いて驚く。
最後には、心拍数や消費カロリー、歩数などアクティビティの効果がレポートになって数値で実感できるのがうれしい。モニターツアー体験でノウハウを蓄積した上で、一般向けにプログラムとしての販売は2021年2月を予定している。
きれいな水と豊かな自然に恵まれ、都心からのアクセスもよい山梨。県のサイト「やまなしウェルネスツーリズム」では温泉、自然の癒し、エクササイズなどの観点から心と体をリフレッシュできるスポットを紹介している。
JR中央線・猿橋駅から徒歩約10分の「大月ロハス村」もそのひとつ。山梨の自然の中で、ヨガ療法士や専門インストラクターによるストレス、健康チェックのあとコンサルテーションを受け、パーソナルなウェルネスに取り組めるのが魅力だ。樹木に囲まれた100畳のウッドデッキでアウトドアヨガをしたり、体にいいロハス弁当(近隣の薬草膳処「じゅん庵」による)をいただいたり。
さらに古民家の体験宿泊施設「雲水舎」では、マインドフルネス、トリートメント、本格的な茶室での茶道体験と坐禅などを1日1組(6名まで)で提供。宿泊しプチ断食やデトックスプランもある。雲水舎の裏には、山から引いた清らかな湧き水が流れ、緑濃い山は心地よい空気で満たされている。猿橋までは新宿から電車で1時間半、特急電車も走る。気軽に行けて、ウェルネス体験に集中して取り組める施設といえる。
日本では昔から温泉地に長逗留して療養する「湯治」があったが、温泉で最短1泊2日から心と身体を整え活力を取り戻してほしいと2017年から「うるはし現代湯治」を提供しているのが、現在15施設ある「星野リゾート」の温泉旅館ブランド「界」だ。
当初は泉質など温泉の知識などを掲示し、宿泊者自身が行うものからスタートしたが、翌年からは「界の湯守り」というスタッフが温泉の入り方などを講義する「温泉いろは」や現代湯治体操、国家資格者によるマッサージの提供などを行い、内容面で進化を重ね、最近では新型コロナ禍にも対応し、免疫力や肺機能を高める「深呼吸」に注目した提案や運動不足改善など新たなプログラムを取り入れている。
たとえば、深呼吸しながらパワーウォーキングを楽しめるマップを配ったり、免疫力向上の食材として知られる生姜を使った寒天ゼリーと2種の生姜湯を提供したり。さらに従来の温泉マッサージだけでなく、国家資格者がパーソナルにお灸の置き方や呼吸法などをレクチャーしていく新メニュー「ほぐしとお灸のいろは」を始めた。最初に東洋と西洋の医学の両面からの問診を行って、ゲストの身体に直接触れることなく、日常のストレッチやマッサージ、呼吸やセルフでできるお灸などその人ごとにカスタマイズしたケアを教えてくれる。温泉旅から戻っても、継続・実践できるアドバイスも助かる。
新型コロナ禍をきっかけに進化を続けるウェルネスツーリズム。いろんな方法で、身体も心もいい状態に持っていき、免疫力のアップを意識した旅はいかがだろうか。
世界有数のトラベルガイドブック「ロンリープラネット日本語版」の編集を経て、フリーランスに。東京と米国・ポートランドのデュアルライフを送りながら、旅の楽しみ方を中心に食・文化・アートなどについて執筆、編集、プロデュース多数。日本旅行作家協会会員。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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