原宿に「グルメの小道」 大人向け、食べ飲みハシゴも
今年2020年に開催されるはずだったオリンピックを踏まえ、都内の主要鉄道駅では再開発が今も行われている。よく話題になるのは渋谷駅の大開発だが、お隣の原宿駅でも駅舎をはじめリノベーションが進行中だ。そんな中、2020年9月11日に開業した原宿の新施設「JINGUMAE COMICHI(ジングウマエ コミチ)」はご存じだろうか。
中高年が「原宿」と聞けば思い浮かべるのは竹下通りや、ラフォーレ原宿だろう。タピオカブームの発祥地とも言われ、女子高生から20代まで、若い女子がスイーツや最新ファッションを求めてスマホ片手に闊歩(かっぽ)するイメージが強烈だ。どうも大人世代は縁遠く感じるが、このジングウマエ コミチは完全に"大人がターゲット"だ。
「原宿=東京のおしゃれなトレンド発信地、として注目されますが、少し上の世代が落ち着いて食事できる場所は意外と少ないのです。大人がゆっくりグルメを楽しんだり、ハシゴ飲みしたりできる小道(街)を作ろう、とできたのが当施設です」(ジングウマエ コミチの広報担当者)。
ジングウマエ コミチは原宿駅の東側、駅から徒歩3分の場所にある。竹下通りは目と鼻の先。ここで本当に大人がゆったり飲めるのか? なによりグルメの小道が出現しても、原宿まで足を運ぶのか? 40代後半、リアル中年女子の筆者が実際に回ってみよう。中高年世代が楽しめる店をセレクトして紹介したい。
まずは1階から。エントランスは一般的な商業施設と変わらない。訪問時はちょうど昼時。原宿では少ない、シニアカップルや筆者と同じか上の世代のビジネスウーマンが次々と中に入っていくのに驚いた。奥に進むと各店の客席が飲み屋街のようにオープンに作られ、それぞれで客がランチを楽しんでいるのが見えて、ワクワクしてしまった。
前出の広報担当者によれば、18店のテナントは(1)ミシュラン星付き店の分店(2)地方の繁盛店の東京初出店(3)人気店の新業態店‐‐という3つの条件で集めたという。確かに居酒屋やイタリアン、中華、和食などジャンルはおなじみながら、見たことがない店名ばかりだ。
1店目は一階奥の「黒豚・地鶏ダイニング SATSUMA(さつま)」から。鹿児島中央駅近くにある屋台村の人気店の東京初出店で、鹿児島産の黒豚を使ったしゃぶしゃぶやとんかつが名物だ。夜は黒豚メニューに加え、さつまあげやキビナゴの唐揚げなどの鹿児島郷土料理と10種類以上の焼酎や地酒を提供。
しゃぶしゃぶに使うスープや自家製ポン酢には、鹿児島北西部で採れる超軟水の温泉水を空輸で仕入れて使う。口当たりがまろやかな温泉水にさっと通したしゃぶしゃぶは、軟らかくほんのり甘味もあって、野菜と一緒にいくらでも食べられそうだ。
ふと見ると、同じしゃぶしゃぶを40~50代とおぼしき女性一人客がおいしそうに食べており、昼から焼酎もたしなんでいた。パリッとおしゃれなスーツを着た中高年ビジネスマン2人組はとんかつランチを食べながら商談風のご様子。まさに、大人が食事を楽しんでいる!
次は同じ1階にある「MOTOMU'S BY KAPPA(モトムズバイカッパ)」へ。A5ランクの黒毛和牛で作るスープカレーやラグーパスタ、グリル料理とイタリアワインを提供するトラットリアだ。運営母体のもとむグループが沖縄で手掛ける大ヒット商品「もとむのカレーパン(黒毛和牛の高級カレーパン)」も数量限定で販売する。カレーパンのファンが、東京に新業態店ができたと知って訪れるケースも多いそうだ。
まずはスープカレーを注文する。一般的なスープカレーのサラサラした状態よりかなり濃厚でリッチ。大ぶりの牛肉やタマネギ、そのうま味が出たスープも味わい深い。夢中で食べ進めるとスパイス効果か、汗が流れて体がポカポカしてきた。店の内観はシックな洋食店風だが、その雰囲気にぴったりのマダム風の女性2人組が、スープカレーと赤ワインのランチを優雅に楽しんでいた。
2階に上がってみよう。ここも多彩な店が集まり目移りしてしまう。中でも目を引くのが、ミシュラン一つ星獲得のフレンチの新業態店「Sincere BLUE(シンシアブルー)」。カジュアル業態で、ミシュランの味をビュッフェ形式でリーズナブルに楽しめる。土日は小学生以下の子供も入店OKで、子育て中の世代のほか、女性客からの強い支持を得ている。グルメだけでなく、未来の地球環境を守る「サステナブル(持続可能)」も料理のキーワードにしているのが新しい。
ディナーと週末はコース料理(4900円、税・サ別)1本で、メイン料理の「サステナブルなたい焼き」が目玉。たい焼きは甘味ではなく白身魚のフィリングをパイで包み焼きしたもの。濃厚な貝のだしの効いたスープと、パリッと香ばしく焼かれた魚のパイの食感の組み合わせがなんともうまい。パイの魚はFIP(漁業改善プロジェクト)のスズキを使用している。
メニューには乱獲を防止し海の資源を守る国際認証のMSC・ASCエコラベル付きの魚介や、未利用魚(水揚げしても食用にしなかった魚)を多用している。余談だが筆者は日本のMSCのオフィシャルライターを4年前から務めており、「環境保護」と「美食」を両立させることは難しいといろいろなシェフから聞いてきたが、ついにこんな新業態が現れたのはうれしい限りだ。2020年7月からはレジ袋も有料化され、身近なレベルからでも地球環境を守ることは今や大人としても最低限のたしなみだろう。
「『この魚おいしいね、どこ産?』とよくお客様に聞かれるので『産地ではなく、環境に配慮した魚を選んで使っています』と説明させていただくことで、当店が環境意識の一つのきっかけになればと思っています」(シェフの吉原誠人さん)
なかなかおなかも満たされてきたが、最後に2階の「立食い寿司 根室花まる」へ。北海道・根室発の回転すしチェーンの高級業態で、主に北海道産のネタを厚切りで握るすしが大好評。特に注文が多いという「本日の三貫セット」(653円・税込み)を食べてみる。
この日のネタは「厚切り生サーモン」「紅鮭すじこ醤油漬け」「あぶらがれい」。脂の乗ったサーモン、プチプチ強く弾けるしょうゆ味のスジコ、濃厚ながら上品でキレのよい食感のカレイ。これをすしでほおばるうまさは言わずもがなで、自然と笑いがこぼれてしまう。
「うちは朝11時から夜まで通し営業をやっているのでいろいろなシーンで利用いただいています。朝の開店すぐは主婦の方、昼時は会社員や美容師さん、近隣の住人の方、そして夜はジングウマエ コミチ内でひと通り食べて飲んだ最後にすしをつまむ方など……全体的に年齢は少し上で、大人の方々が施設内をハシゴされる様子を見ていて『僕自身もお客さんで来たらすごく楽しめるだろうな』と思っています」と店長の桂康之さん。
今回紹介した店以外にもミシュラン一つ星フレンチの新業態店「ラ・コレール」、ビブグルマン獲得のギョーザ店が出す新業態店「小籠包(ショウロンポウ)マニア」や、鹿児島産の刺し身や魚料理で飲める居酒屋「パーラーじゃりンこ」、シンプルな中華そばが売りの「Noodle Stand Tokyo」など全18店が集まる。
とても1日では回りきれなかったが、いずれもメニューやコンセプトの面白さとともに、確かに中高年が居心地よく楽しめる店ばかりだった。原宿の大人向け新スポット、一度足を踏み入れてはいかがだろうか。
(フードライター 浅野陽子)
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