そこで一般的な経営者は(1)の集中投資を選びがちです。そこである程度もうかってから、(2)か(3)の選択肢に向かおうとします。

しかしいったん(1)の選択をしてしまうと、組織はその事業に最適化されてゆきます。決まった商品の大量生産、そこで求められる品質の安定性やコスト削減などに特化したスキルを蓄積し、経験を積み、そのための人材を確保するようになります。顧客に強く求められることで、今の商品を作り続けるインセンティブが働き、新しい製品を作ろうとする意欲もスキルも失われていくのです。

さてこの状態は、個人のキャリアでも見受けられます。それは就職したときの行動です。入社した会社で認められるために仕事を覚え、そのためのスキルを磨き、同僚と関係を築き、上司に認められながらその会社の既にあるビジネスに最適化してゆくのです。

これまでの出世とは、そのようなキャリアを積んでいくこととほぼ同義でした。

現状に不満がある人ほど両利きのキャリアで優位に立てる

既存ビジネスに最適化した組織では、人事の仕組みもそのように設計されています。

特に一度入社した会社からの途中退社が少なかった時代においては、既存ビジネスに最適化するキャリアしか選べなかった、といっても過言ではありません。新しい製品は常にカイゼンによって生み出され、そこに破壊的なイノベーションは求められてこなかったからです。

しかしもし私たちの前に劇的な変化が訪れ、既存ビジネスの先行きに不安が生じるとしたらどうでしょう。既存ビジネスに最適化した意識やスキルでは、新しいことを考えることが難しく、今までと違う行動をどのようにとればよいのかもわかりません。

激変が来てからでは遅い、とすれば、私たちはキャリアの一部でもよいから、両利きにしておくべきではないでしょうか。

両利きの経営という考え方は、知の「活用」に偏りがちなビジネスに対し、知の「探索」を重視することを説きます。ただし、それぞれに求められる組織能力は異なることが多いため、「探索」成果の典型である新規事業創出については、本社と切り離した場所で行うように仕向ける場合もありました。

転じて私たちのキャリアにおいても同様の傾向がありそうです。

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