イノベーション思考は京都流

「オンリーワン」は創業の志でもあるだけに、特別な体験の提供に力を入れてきた。天龍寺では塔頭(敷地内にある子院)「宝厳院」の非公開エリアから庭園を眺め、京料理の名店「嵐山熊彦」の料理を味わえるプランを提供した。モガナのゲストだけに許された、庭園を堪能できる貸切夜会。京都の古刹につてがなければ企画しようのないプランだ。今はコロナ禍のせいで、開催を見合わせているプランが多いが、「モガナから丁寧にお願いすれば、話を聞いてくださるお寺や料亭がある。別館のような感覚で、ホテルを使って、いろいろな京都を体験してほしい」と、繁田氏はプライベートなエージェント役を買って出る。

南部鉄器の急須をはじめ、茶器類も選び抜かれている

無線LANは用意されているが、部屋でスマートフォンやパソコンを取り出す気にはあまりならない。むしろ室内に置かれた南部鉄器の急須で緑茶を淹(い)れて、ゆっくり本でも読みたくなる。実際に本を持ち込んで読書三昧にふける客も珍しくないという。京都・宇治の老舗「丸久小山園」の茶葉と、山中漆器(石川県)製の茶筒・湯飲みが用意されている。京都の有名店「AMANO COFFEE ROASTERS(アマノ コーヒー ロースターズ)」の自家焙煎コーヒーも選べるが、電動コーヒーメーカーではなく、ハンドドリップ器具をそろえているのが「モガナ」らしい。

テレビはないが、Bang & Olufsen(バング&オルフセン)社製スピーカーから澄んだ音楽を流せる。調度品や盆栽を愛(め)でて、和の美しさを再確認する機会にもできそうだ。気ぜわしさから離れる「デジタルデトックス」にはうってつけのリトリート(隠れ家)だろう。繁田氏は「日常の中にうまくリセットの時間を組み込んでほしい」と関西の地元居住者に普段使いを誘いかける。

普段使いを織り込んだ会員制度を8月に立ち上げた際には、クラウドファンディングを活用した。三つ星ホテルにしては珍しい、今風の取り組みとも映るが、繁田氏は「どんどん進化していくのは、むしろ京都のやり方」という。産業界に目を向ければ、京都は新しい企業を育んできた街でもある。ロームや村田製作所、島津製作所などの京都発企業も「過去にとらわれない京都思考の表れ」(繁田氏)。ホテルや観光業の経験を持たない夫妻ならではの「素人感覚」は業界の慣習や固定概念に邪魔されない点で、歴代の京都ベンチャーに連なってみえる。

コロナ禍は旅のありようを書き換えた。ホテルはビジネスモデルを根本から見直す必要に迫られている。しかし、繁田氏は「一見、不自由になってしまった日常生活に新たな楽しみを生み出す『デュアルライフ=京都での2拠点生活』」を提案。いち早く旅とホテルの新イメージを打ち出した。駆け足で京都観光をこなすのではなく、その日はたまたま京都に住まうといった、しなやかに過ごす時間は「丁寧な暮らしの延長線上にある」と繁田氏はみる。「モガナ」がそんな伸びやかで気負わない「旅」の居場所を引き受けてくれるのは、言わずもがなだ。

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