マスク姿でも目元に魅力を 男性コスメに異業種参入
男性コスメ市場に異業種から参入が相次ぎ、ユニークな商品が増えている。参入したのは酒蔵やエステサロン、雑貨通販など様々。男性のスキンケア意識の高まりに加え、新型コロナウイルス感染症の拡大でオンライン会議やマスク着用の機会が広がり、目元を中心に肌の手入れで見栄えをより良くしたいと考える男性が増えたためだ。
老舗の酒蔵が男性コスメ市場に参入――。菊正宗酒造(神戸市)は9月、男性用化粧水「日本酒保湿化粧水」(150ミリリットル、税抜き1200円)を初めて売り出した。日本酒に含まれる保湿成分を配合した化粧水でドラッグストア、雑貨店、ネット通販などで販売する。
日本酒は昔から水で薄めて肌の手入れに使われるなど保湿効果に優れているとされる。そこにアロエベラ葉エキスなどを入れた「さっぱり」タイプ、シャクヤク根エキスなどを入れた「しっとり」タイプの2種類を用意した。ヒゲそり後の顔の肌を滑らかに整えるほか、全身の肌の手入れにも使えるという。
同社は事業多角化の一環として2011年から美容液、乳液、化粧水など女性コスメ市場に参入しているが「数年前から男性客による購買が予想以上に増えていることに気がついた」(化粧品事業課長の阿曽利彦さん)。若者を中心に美容意識が高まり、日焼けによるシミや小じわを気にする男性が増えてきたためだ。
もともと菊正宗ブランドは男性になじみが深く、ブランドの浸透度も高い。さらに新型コロナウイルス感染拡大に伴い自宅で自分磨きに精を出す巣ごもり消費が増えており「男性コスメを拡販するビジネスチャンス」(阿曽さん)と期待を膨らませる。
肌の白さやきめの細かさなどを強調する男性の韓流スターやK-POPアイドルの人気の高まりも追い風になっているようだ。「意外性、話題性があって面白い。使ってみたい」(30歳代男性)と消費者の反応も上々だ。
一方、プロサッカー選手の三浦知良さんをCMキャラクターに起用する男性エステサロン「ダンディハウス」などを展開するミス・パリ・グループ(東京・中央)も6月から男性コスメの卸売りを始めた。
「オールインワンジェル」(80グラム、税抜き4800円)、「クレンジングフォーム」(100グラム、同3500円)、「スキンケアローション」(120ミリリットル、同3800円)を自社のサロンやネット通販に加えて、新たにドラッグストアや雑貨店、ディスカウントストアなどでも販売している。
ダンディハウスの運営を通じて培ったスキンケアのノウハウを自宅でも体験できるのが特徴。コロナ感染への懸念からサロンへの来店を控えている顧客もいるので「顧客サービスの拡充に加え、新たなファンの獲得につながる」とミス・パリの商品部主任、三桶裕司さんは話す。
異業種のベンチャー企業による新規参入も目立つ。男性コスメブランド「HMENZ」は雑貨通販や人材派遣などを手がけるスプリーブ(大阪市)が出資母体。洗顔料「泥洗顔」(130グラム、税抜き1819円)など肌や頭髪、ムダ毛のケア商品を取りそろえる。
男性コスメ市場に異業種からの新規参入が増えている理由について、化粧品ビジネスのコンサルティングを手がける福本剛広さんは(1)市場規模が成長している(2)OEM(相手先ブランドによる生産)で製品を調達できる(3)ネット販売も含めて販路構築が容易――などの要因をあげる。
富士経済(東京・中央)によると2019年の男性コスメの市場規模は1199億円。11年(995億円)以来、8年連続で増加した。化粧品全体の市場規模2兆8149億円(19年)の4%程度にすぎないが、今後も成長が見込める分野だと期待を集める。
こうした状況を踏まえ、ロフトは10月2日から全国129店の男性コスメ売り場を大幅拡充し、英国発の「ウォーペイント」など34ブランド、約150種類の商品を販売する大規模イベントを始めた。大手の化粧品ブランドだけでなく、様々な特徴を持つ個性的な男性コスメ商品が増えつつある。
編集委員 小林明
[2020年10月17日付日本経済新聞夕刊]
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