5G対応の新型iPhone 小型版「mini」登場で選びやすく
佐野正弘のモバイル最前線
米Apple(アップル)は米国時間の10月13日、新製品発表会を開催し、新しい「iPhone 12」シリーズ4機種を発表した。今回の新iPhoneはデザイン面から刷新されたこともあり、従来機種と比べカメラやチップセットなどさまざまな面で変化がみられる。最も大きく変化したポイントは、何と言っても最新通信規格の「5G」に対応したことだろう。
アップルはさまざまな経緯から、主要スマートフォンメーカーの中で唯一、5G対応スマートフォンを投入できていなかった。それだけに新iPhoneでの5G対応は、アップルにとってある意味、会社の命運がかかっている。今回の発表会でも米通信最大手のベライゾン・コミュニケーションズの最高経営責任者(CEO)をゲストに呼ぶなど、「5G対応」のアピールに懸命だった印象を受けた。
もちろん米国だけでなく日本向けの5G対応もアピールしており、発表会ではNTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの3社の5Gネットワークに対応することが明らかにされた。国内では政府の端末値引き規制によって5G端末の販売が伸び悩み、普及が大きく遅れているだけに、携帯電話業界内では「5G対応iPhone」がその打開策になると強い期待を抱く向きも多い。
その新iPhoneの販売を占う上で注目されるのが「iPhone 12 mini」である。これは5.4インチのディスプレーを搭載し、現行の第2世代「iPhone SE」よりもコンパクトながら5Gにも対応した機種。実は従来のiPhoneのラインアップには、こうした機種は存在しなかった。
2019年発表のiPhone 11シリーズを振り返ると「iPhone 11」「iPhone 11 Pro」「iPhone 11 Pro Max」の3機種構成で、高額な「Pro」シリーズの方に重きが置かれていた。高価格帯に偏った、ここ最近のラインアップが「iPhoneは高くて買いづらい」というイメージを強くし、販売数が伸び悩む要因になっていた印象は否めない。
だがiPhone 12シリーズでは、新たにiPhone 12 miniを用意したことで、カメラ性能に力を入れたProシリーズ2機種とのバランスが取れるようになった。タブレットのiPadのようにiPhone 12 miniとiPhone 12が一般消費者向け、「iPhone 12 Pro」と「iPhone 12 Pro Max」が写真や映像にこだわるプロ・セミプロ向けと位置付けが明確になり、消費者が適切な機種を選びやすくなった。高額なイメージも薄らいだので、アップルにとってプラスに働く可能性が高いだろう。
しかもiPhone 12 miniは、最も安価な64ギガバイトのモデルであればアップルストアの販売価格で7万4800円(税別)。最近発売された同価格帯の5G対応スマートフォンとしては楽天モバイルの「Rakuten BIG」(税込み6万9800円)やauの「AQUOS zero5G basic DX」(税込み8万1315円、公式オンラインストアで一括販売価格)などがあるが、いずれもチップセットがハイエンドではない。こう考えると、最新チップセット「A14 Bionic」を搭載するなど、非常に高い性能を備えたiPhone 12 miniのコストパフォーマンスはかなり高い。
もちろんiPhone 12 miniはその分ディスプレーが小さいが、日本ではコンパクトな端末が好まれる傾向にあるだけに、むしろプラスに働く部分が大きいだろう。そうしたことからiPhone 12シリーズ、とりわけiPhone 12 miniが日本の5G普及のけん引役になる可能性が高い。ライバルにとっては大きな脅威となりそうだ。
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。