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25万トンの巨岩が落下 12億年前の数秒間を解明

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ナショナルジオグラフィック日本版

英国スコットランドの海辺に、重さ約25万トン、長さ100メートルの巨大な岩が横たわっている。これはただの巨岩ではない。はるか昔、今から12億年前にこの場所に落ちてきた、「陸上で最古の落石」なのだ。

当時英ダラム大学の修士課程に在籍していたザカリー・キリングバック氏は、巨岩が落下した数秒間の出来事をつまびらかにしたいと考えた。

地球が冷えて岩石が形成されるようになって以来、無数の岩が崖から落ちてきたが、地質記録の中では古代の落石はほとんど見つかっていない。スコットランドのこの巨岩は、現代の大陸が形作られるより前、地上に動物が出現し、植物が大地に根をはるよりも前の時代に地球上で起きていたことを示してくれる。

2020年9月に地質学の専門誌「Geology」に発表された論文によると、この巨岩は15メートルほどの高さからぬかるんだ堆積物の中に落ち、その衝撃で割れて、割れ目に泥が入り込んだという。岩が落ちた崖は浸食により失われ、落下した岩だけが残っている。

「注意深くアプローチすれば、たった1つの岩石から驚くほど詳細な事実を明らかにできることを示す研究です」と、米ネブラスカ大学リンカーン校の構造地質学者で、今回の研究には参加していないカーラ・バーベリー氏は称賛する。「じつに美しい論文です」

地質学のディズニーランド

スコットランド北西部の海岸は一見の価値がある。ターコイズブルー(緑がかった青色)の海が海岸を洗い、岩が切れ込んだ奥には小さな砂浜がある。この地のなだらかな地形には、超大陸が形成されては分裂し、川や湖が流れたり消えたりした数十億年の地史が記録されている。

「英国人にとっては、地質学のディズニーランドのような場所です」と、香港大学の地質学者アレックス・ウェッブ氏は言う。氏は今回の研究に参加していない。

古代の地形が見られるこの地を科学者たちは昔からよく訪れていて、今では学部生の野外実習の人気スポットになっている。今回の論文の共著者であるダラム大学の構造地質学者ボブ・ホールズワース氏は、「コロナの流行がなかったら、私は今頃、このあたりの露頭にいたでしょう」と言う。

ホールズワース氏らは、野外実習でここを訪れていたときに、クラッチトール村の近くの巨岩に奇妙な点があることに気づいた。一帯の岩は、ルイーシアン片麻岩(へんまがん)と呼ばれる30億年も前の岩石で、形成時に巨大な圧力を受けた結果、鉱物が何層も積み重なった構造をもつ。この層状の構造は、周辺のほとんどの岩では同じ向きに傾いているのに対し、その巨岩だけは90度回転していたのだ。

ホールズワース氏らは、回転した層や岩の奇妙な割れ方は、この巨岩が突然落下した結果ではないかと考えたが、それを証明するためにはより多くのデータが必要だった。そこでキリングバック氏は、この問題を修士論文のテーマにすることにした。

手掛かりを集める

問題の巨岩は、キリングバック氏が学部生の頃から気に入っていた場所にある。自閉症の彼にとって、クラスメートと行く野外実習は苦痛を伴うことが多かった。ほかの学生と一緒にぞろぞろと歩いたり、早口で飛んでくる指示に従ったりすることは、常に大きな障害だった。

しかし、クラッチトールでの野外実習はそうではなかった。ここでは教授による地質学的な名所案内はなく、「基本的に自由にさせてくれたので、とても気に入っていたのです」と彼は言う。

2016年9月、彼は修士論文研究のために学部生たちと一緒に再びクラッチトールを訪れた。目的は、巨岩の構造を調べて地図を作製することだった。丘の間を強風が吹き抜け、雨が降りしきる中、キリングバック氏は個々の作業をできるだけ効率よくこなした。研究室に戻ると、地球のはるかな過去を再現する作業にとりかかった。

落下と破壊

キリングバック氏らが解き明かした地質学的物語は、次のようなものだ。今から約12億年前、今日のスコットランド北西部の海岸にあたる地域には盆地が形成されようとしていた。あちこちに湖があり、そこに川が流れ込んで、岩石と赤い土砂の層を堆積させていった。あるとき大地震が起きて、崖から岩塊が落ちた。落下の際に岩塊がわずかに回転したため、内部の層は、同じ地域のほかの岩の内部の層と直角になった。

岩塊が地面に衝突したとき、上と下から亀裂が入った。現在、亀裂は赤い泥で埋められており、上下のわずかな違いが落下の証拠となっている。上の亀裂の中の土砂は層状になっていて、時間をかけて徐々に裂け目に流れ込んでいったことを示している。これに対して、下の亀裂はもっと細かい土砂で満たされていて、層状構造は見られない。これは、落下の衝撃によって土砂が急速に入り込んだことを示している。バーベリー氏は、このパターンを落石の「決定的な証拠」と呼ぶ。

キリングバック氏は、巨岩の前面に大きな亀裂が入っていることから、落下の際に滑ったことがわかると言う。研究チームは、岩が割れるのにどのくらいの力が必要であるかを検証するため、岩の小さな標本を研究室に持ち帰った。この数値は、岩が落下した距離を特定するのに役立った。15メートル以下であるらしいことがわかった。

毎年のように学部生をこの場所に連れてくるという英ポーツマス大学の地質学者キャサリン・モットラム氏は、「言われてみれば、もっともな話です。なぜ今まで気づかなかったのでしょうね」と言う。氏は今回の研究に参加していない。「私など、この岩の上で何度か昼食をとったことがあるというのに」

岩に隠された物語

キリングバック氏にとって最大の課題は、自分の考えを文章に変換することだった。自閉症の人には、彼と同じ問題を抱えている人が少なくない。「私は基本的に絵としてものを考えるのです」と彼は言う。「私の頭の中には、サイレント・ドキュメンタリー映画のような形で、完全な論文ができていました」

頭の中にある映画を文章にするのにさらに2年かかったと彼は言う。「私の頭にUSBメモリーを差し込んで論文を全部ダウンロードできるような技術を誰かが発明してくれないだろうかと本気で思いました」

キリングバック氏はこの困難を克服するため、母親に研究の一部を説明し、自分の言葉をその場で書きとめるなどの対処法を編み出した。最終的には、それが功を奏して、すばらしい論文が完成した。

英インペリアル・カレッジ・ロンドンの地質学者クリストファー・ジャクソン氏は、「落石は常に起きていますが、岩石記録に保存されていることはめったにありません。彼の研究は、このプロセスを目にする良い機会を与えてくれました」と言う。氏は今回の研究に参加していない。

地質学の楽しみの1つは、手がかりとなる岩石を特定する探偵の仕事にある。ウェッブ氏はキリングバック氏の論文について、「解明の喜びがページからほとばしるような論文です」と言う。

(文 MAYA WEI-HAAS、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年10月9日付]

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