しかし、そんな学生は一部なのかもしれない。2021年卒の学生を対象に実施したマイナビの「就職企業人気ランキング」によると、文系で最上位のメガバンクは三菱UFJ銀行で21位。三井住友銀行が35位、みずほフィナンシャルグループが58位だった。ほんの数年前までは上位の常連だったが様変わりした。

別の早稲田大3年の女子学生は「ドラマに影響されてか、メガバンクは何でもトップダウンで、自分の希望がかなわないイメージだ」と敬遠する。少子高齢化や長引く低金利の影響を受け、収益構造が悪化する銀行業界。就職先としての魅力を高めるためにも、メガバンクは旧来のイメージを脱し進化を遂げようとしている。

「社内兼業」を奨励も

硬直した人事制度にメスを入れたのはみずほフィナンシャルグループだ。19年4月に「新人事戦略」を策定。社員の成長や希望の仕事に応じて配置するのが特徴だという。

担当業務を手がけながら、興味ある業務やプロジェクトに手を挙げて参加できる「社内兼業」制度を始め、85人が活用する。応募者の36%を20代社員が占め、若手にも活躍の機会を与える。採用チーム次長の藤井秀明氏は「社員のバリュー(価値)を最大化したい」と意気込む。

銀行が若手の活躍できる環境を整え、就職希望先として再び輝く日は来るか(あるメガバンクの2018年の入行式)

フィンテックなどデジタル化も銀行業界が直面する大きな課題だ。三井住友銀行は19年入社からは総合職に「デジタライゼーションコース」を設け、主に大学院卒の理系学生を毎年約5人ずつ採用している。入社して半年から3年までの間に、デジタル系の部署に必ず配属される。

銀行はフィンテック分野のスタートアップ企業からの圧力を受けつつある。それでも「銀行には顧客との信頼をベースに培ってきた情報やネットワークなど、価値ある資産がある」(人事部採用グループ長の持田恭平氏)と分析する。

三菱UFJ銀行は専門部署「デジタル企画部」を作った。「若手も活躍できる人気の部署だ」(同行)といい、2~3年目の行員も在籍する。

19年からは「デジタルインターンシップ」として人工知能(AI)を用いたサービスや、デジタル技術を使用した新規事業を企画する有給の長期インターンシップを開く。採用面接でもデジタル企画部を志望する学生が多いという。

転換期を迎えた銀行の実情を映すように、就活生の意識の変化も感じ取る。あるメガバンクの採用担当者は「これまでのように『メガバンクに入れば安泰だ』というマインドで入ってくる人は少ない」と語る。

メガバンク入行1年目の男性は「国内で稼ぐのは非常に厳しい」とみる。かつては本店の営業担当が出世コースだったが「今ではデジタル関係の部署が花形になっている」と明かす。

ドラマが描く世界はもちろんフィクションだ。それでも銀行にはいまだに保守的で硬直的、内向きな印象がつきまとうのは確か。人事のあり方を変え、新しい事業に果敢に挑み、これまでのイメージを打破することは、将来を担う若い人材をひき付ける上でも欠かせない。

メガバンクをはじめとする銀行は、就活をくぐり活躍の場を求めてくる若手の期待に「倍返し」できるだろうか。

(企業報道部 仲井成志、鈴木洋介)

[日本経済新聞電子版 2020年10月14日付]

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