2020/10/20

シリーズ第5作『男はつらいよ 望郷篇』。夏の柴又と北海道を舞台にしたこの回を見ると、腕時計をしている様子を多く見ることができる。後で知ったことだが、なんと、この回のポスターにもデカデカと出ているではないか! なのに、なぜ、あまり語られなかったのか。その理由は複数考えられる。

ラバーバンド、なぜ変更?

一つは文字盤の色。セイコーのファーストダイバーは、文字盤がチャコールグレーなのだが、映画の中で時計を見ると、文字盤が黒く見える。たぶんこれは当時のフィルムの性能のせいだと思われるが、このことが、「寅さんの時計=セイコーファーストダイバーズ」と断定することを難しくした。また、本来であれば「トロピックバンド」と呼ばれるラバーバンドがついているはずなのに、映画内ではブレスレットに変更されていることも混乱を招いた。寅さんのベージュを基調にしたファッションには、確かに黒のトロピックバンドは少しスポーティーすぎる。きっとキャラクターに合うよう、ブレスレットに変更されたに違いない。

『男はつらいよ』の初期シリーズで寅さんがしていた腕時計の実物。ブレスレットはマルマン社製のものがつけられている

時計の発売年(1965年)と映画の公開年(1969年)の4年の時間差も、時計の確定においては少し気になった。一般的に、映画の主人公がつける時計は、特別な意味づけがされる場合を除いては、発売すぐのモデルが多いからだ。このようないくつかの理由から、たぶんセイコーファーストダイバーで間違いないとは思いつつも、広く喧(けん)伝するだけの自信が持てない人が多かったのではなかろうか。もちろん、自分自身も含めて。

寅さん愛用のゴールドの指輪が、当時の大船撮影所の近くにある時計宝飾店「コロナ堂」で作られたという話を耳にし、取材に行こうかとも思った。コロナ堂といえば、セイコーの時計を広く扱う時計店として知られている。ファーストダイバーズであれば、ここで購入された可能性もあるし、少なくとも当時のことを知る人の証言がとれるのではないか……。

セイコー プロスペックス 1965 メカニカルダイバーズ 復刻デザイン 男はつらいよ ビームス篇 2017年に復刻されるや2000本が即完売となった「セイコー1965メカニカルダイバーズ」の復刻モデルをベースに、ケースには耐食性に優れた「エバーブリリアントスチール」を採用。 自動巻き、SSケース、径39.9mm、52万8000円(税込み)、2色の強化シリコン製トロピックバンドを付属、ビームス ジャパン限定300本、11月20日発売(事前予約受付あり)

そうこうするうちに、この秋、セイコーから正式回答とも呼べるニュースが発表された。『男はつらいよ』の名を冠した「セイコー1965メカニカルダイバーズ」の復刻モデルが、ビームス ジャパンの別注モデルとして発売になるという。もちろん、松竹のお墨付き。山田洋次監督からは、この時計を見た時「おれがつけているからってニセモノじゃないよ 断っておくが、この時計はホンモノだよ」という寅さんのセリフまで飛び出たというから、これはもう間違いない。

寅さんの時計をめぐる冒険は、こうしてあっけなく終わった。それでも、寅さんがしたという腕時計の伝説は、これからもずっと語り継がれることになるだろう。

(文・安藤夏樹 写真・岩崎寛)


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