このチャーチルの絹の下着を仕立てていたのが、ロンドンの老舗「ターンブル&アッサー」です。彼の大のご贔屓(ひいき)で、ほかにも絹のドレッシングガウンやボウタイ(蝶ネクタイ)もこの店の商品でした。

チャーチルは20歳の頃から晩年に至るまでボウタイを愛用しました。最も好んだのは紺地にシルバーの水玉模様。細かいことを申しますと、常にドットの織柄でした。世界でもっとも長く水玉のボウタイを愛用した人物としてはギネス級であり、これも典型的な貴族趣味といえます。なぜならボウタイはネクタイのルーツである、17世紀に貴族階級が首に巻いていた「クラヴァット」の名残でもあるからです。

胸ポケットのハンカチ、飾りではなかった

チャーチルが私たちにお手本を示してくれたもののひとつに、胸ポケットのハンカチーフがあります。日本では「ポケットチーフ」と呼ばれますが、これは純然たる和製英語です。

上着の胸ポケットに入れるハンカチーフを、正しくは「ポケットハンカチーフ」と言います。これは英国流で、あまりにそのままの言い方ですね。同じものがアメリカでは「ポケットスクエア」。ポケットに入れる四角いもの、と表現するわけです。

ポケットハンカチーフでもポケットスクエアでもいいのですが、その歴史は古いものです。

大抵の人は手を洗ったらハンカチーフで拭きます。そのハンカチーフをどこに入れておくべきか。これには色々な試行錯誤があったらしいのですが、結局、19世紀に上着の胸ポケットに落ち着きました。理由は、右手で扱いやすいから。ぬれた手を持っていくのには一番の場所だったからです。

なかには絹のハンカチーフを使うぜいたくな人もいたでしょう。しかし吸水性と速乾性に優れているのは断然、麻です。午前中にぬれた手を拭いて胸ポケットに戻しておけば、午後には完全に乾いています。

さて、洗った手を拭くためハンカチーフを取るとき、上着はぬらしたくありません。だから1度使ったあと、2度目に取り出しやすいように端を少しのぞかせておきました。これがポケットハンカチーフの現在のスタイルの始まりです。

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