
雑誌「アンアン」では、ファッションと共にパリで暮らすデザイナー自身のおしゃれなライフスタイルがよく特集された。当時付き合っていた彼女に、KENZOの花柄のティアードミニスカートやイリエのマイクロミニスカートに「トキオクマガイ」のアニマルモチーフのパンプスをはかせて、憧れのパリジェンヌを気取ってもらったものである。いやはや筆者も若かったのだよ。
この頃のアンアンは男性が読んでも面白かった。なにしろSNSも何もない時代である。リアルなパリの情報を得られるのが当時のアンアンであったのだ。とりわけ筆者が食い入るように見ていたページが、誰あろう、高田賢三氏本人が出ているページである。
ラルフ・ローレンしかり、ジョルジオ・アルマーニしかり、よくデザイナー本人の普段の私服スタイルこそが一番おしゃれで着こなしの参考になると言うが、筆者にとっては高田賢三氏の私服スタイルがまさにそれである。
私服スタイルはパリ風
第一線を退いた晩年になってからのグレイヘアに合わせたモノトーンを基調としたシックな着こなしも格好いいが、80年代の中頃の高田賢三氏の私服スタイルは、今見ても本当に格好いい。ぱっと見はきわめてコンサバなのだが、しいてカテゴリーで分けていえば、いわゆるフレンチアイビーというスタイルだ。すぐにでも着こなしの参考になる。

例えば、パンツは大抵いつもコインポケットの付いたタック入りで、ややテーパードシルエットのチノパンツをはいていた。おそらく、フランスのパンツブランドの「ベルナールザンス」か、あるいは「オールドイングランド」のものと思われる。これにプンターレ(金具のチップ)の付いたウエスタンベルトを垂らして合わせているところが、いかにもパリジャンらしいチノパンツの着こなし方である。
チノパンツに合わせて着ていたのは、上質なブロード生地のドレスシャツ。それもトラッドな細かいブルーのギンガムチェックやエンジの格子といったカジュアルな柄モノである。なんでも、忙しい仕事の合間をぬってはパリの「ターンブル&アッサー」で生地から選んで同じ柄、同じ型を何十枚とオーダーして仕立てていたのだそうだ。筆者も数年前にロンドンで初めて「ターンブル&アッサー」に行った時に、長年の念願がかなって高田賢三と同じブルーのギンガムチェックのドレスシャツを思わず購入してしまいました。