トランプ大統領も復帰 未承認モノクローナル抗体の力

日経ナショナル ジオグラフィック社

効果と安全性は?

REGN-COV2は効果と安全性の確認がまだ取れていないため、試験段階にある治療薬ということになる。米食品医薬品局(FDA)は、回復者の血漿や抗ウイルス薬「レムデシビル」と違い、REGN-COV2に対しては緊急使用許可を出していない。

あらゆる治療法は、臨床試験において検証が行われるのが原則だ。患者を、その薬を投与するグループと、効果がないとされるプラセボ薬を与えるグループにランダムに振り分け、結果を比較する。リジェネロンのREGN-COV2は、こうした試験の初期段階にある。完全な結果がまだ公表されていないこともあり、この治療薬の使用を懸念した医療関係者もいた。まして大国のリーダーに使うとなるとなおさらだ。

しかしトランプ氏の医師団は、それでも投与したほうがいいと考えるほど大統領の状態を憂慮したのだとブリガム・アンド・ウィメンズ病院のファウスト氏は話す。

リジェネロンは9月29日に投資家およびメディア向けの会見を開き、最初の275人の患者に実施した臨床試験の暫定的な結果を発表した。それによると、自分自身の抗体が十分に作られていなかった患者に対し、REGN-COV2を8グラム投与(血管に注入)したところ、鼻の中のウイルス量が減少した。また、症状が軽減する傾向も見られたが、統計的に有意な差が出るには至っていないという。同社はなるべく早い時期に正式な結果を発表したいとしている。

リジェネロンと提携してREGN-COV2の予防的治療薬としての効果を検証しているCoVPNのコーエン氏は、今のところモノクローナル抗体の安全性に問題はなく、「安全でないと考えるべき理由もありません」と話す。「ウイルスのスパイクたんぱく質を攻撃するものですので、どう考えてもヒトの組織には干渉しません」

しかし、抗体治療には懸念材料がつきまとう。その1つが、特定の状況下ではかえってウイルスがヒトの細胞と結合する能力を高めてしまい、病状を深刻化させる可能性だ。

抗体依存性感染増強(ADE)と呼ばれるこの現象は、少なくともREGN-COV2を用いた動物実験では見られていない。ただし、この結果を記した論文はまだ査読を終えていない。

リジェネロンのボウイ氏によれば、これまでに2000人以上が臨床試験に参加し、データを追跡している独立した委員会で安全性への懸念が示されたこともないという。「安全性は私たちの最大の関心事であり、常に注意深く見守っていますが、今のところ問題は起きていません」

とはいえ、トランプ氏に投与すべきだったかどうかについては疑問が残る。1つには、リジェネロン社が結果を公表した初期の臨床試験は、トランプ氏より30歳も若い平均年齢44歳の患者に対して行われたという点だ。年齢層によってREGN-COV2への反応が異なるかどうかについて、同社ではまだ十分なデータを得られていないという。ただし、免疫系が弱っている高年齢者のほうが、得られるメリットは大きい可能性があるとコーエン氏は指摘する。

ほかにトランプ氏が用いた薬は?

トランプ氏の主治医のショーン・コンリー氏は10月2日の記者会見で、大統領がREGN-COV2の他にも様々なサプリメントや薬を使用していると話した。

それは、一般的に免疫を強化するとされるビタミンDや亜鉛などだ。ただし亜鉛は、新型コロナの治療法として効果が否定された抗マラリア薬のヒドロキシクロロキンとも関係する。併用すると効果があると報じられたことがあるからだ。

トランプ氏はさらに、高齢男性における心臓病予防に効果的とされているため、低用量のアスピリンを毎日服用している。心臓病は新型コロナ感染症を重症化させる既往症であり、トランプ氏は少なくとも18年の健康診断以降、アスピリンを服用している。

緊急治療にはREGN-COV2以外にも、臨床試験段階にある治療薬が少なくとも3つ用いられた。そのうち、睡眠を助けるメラトニンと胸やけ治療薬のファモチジンの2つは、新型コロナ感染症で併発しやすい炎症を軽減する効果が期待される。

トランプ氏はさらに、当初エボラ熱のために開発された抗ウイルス薬「レムデシビル」をFDAの緊急使用許可を受けて投与された。これまでのところレムデシビルには、回復までの時間をやや短縮する効果があることが臨床データで示されている。

(文 MICHAEL GRESHKO、訳 桜木敬子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2020年10月6日付の記事を再構成]

ナショジオメルマガ
注目記事
ナショジオメルマガ