トランプ大統領も復帰 未承認モノクローナル抗体の力

日経ナショナル ジオグラフィック社

モロクローナル抗体とは?

抗体は、免疫系が病原体に反応して作り出すY字型のたんぱく質だ。重要な役割は2つある。1つは、ウイルスに取り付き、ウイルスが細胞に侵入して複製するのを防ぐこと。もう1つは、病原体に目印を付け、免疫を担う他の細胞やたんぱく質が退治できるようにすることだ。

ワクチンは体に抗体を作らせる。一方、モノクローナル抗体や回復者の血漿を用いた治療は、患者の体内に直接、抗体を送り込む。どちらも感染症と闘う免疫系にアドバンテージを与えるのが目的だ。

「トランプ氏の免疫系は今、ウイルスと闘っていて、もしウイルスが勝てば悲惨な結果になりえます」。リジェネロンのレオナルド・シュライファー最高経営責任者(CEO)はトランプ氏が入院した10月2日の夜、米CNNにそう語っていた。「私たちが作る抗体は、その闘いで免疫系が有利になるようにするのです」

新型コロナ回復者の血液から抽出する血漿には、様々な種類の抗体が含まれる可能性があるのに対して、モノクローナル抗体は特定の対象を攻撃するようにできている。新型コロナウイルスを対象としたモノクローナル抗体は、鼻や口でウイルスが生存できないようにし、肺に到達して深刻な症状を引き起こすのを防ぐ。

「理論的には、『そもそも肺に行けるようなウイルスがいない』という状態を作りたいわけです」。米ノースカロライナ大学チャペルヒル校の感染症専門医であり、COVID-19予防試験ネットワーク(CoVPN)を率いるマイロン・コーエン氏はそう説明する。「心配すべきは鼻への感染ではなく、下気道への感染です」

米製薬大手イーライリリーをはじめとする多くの企業は、新型コロナ回復者の血液を調べて抗体の開発に役立てようとしている。リジェネロンの場合は、ヒトの免疫系を持たせたいわゆるヒト化マウスに新型コロナウイルスを感染させ、抗体を作り出すヒトの免疫細胞を抽出した。

その中から、新型コロナウイルスのスパイクたんぱく質に最もよく結合する抗体を作れる細胞がどれかを調べる。スパイクたんぱく質は、ウイルスがヒトの細胞に侵入する際に鍵の役割を果たす。

こうした選別過程を経て、特定の1種類(モノ)の抗体のみを作るクローン細胞の株が生み出される。それを使って作られるのが「モノクローナル」抗体だ。

先日、米紙ワシントン・ポストのキャロリン・ジョンソン氏が伝えたように、リジェネロンではハムスターの卵巣由来の細胞を用いて抗体を大量に生産している。巨大なタンクの中で細胞を培養し、そこから抗体を抽出する。

最終的にでき上がるREGN-COV2には、新型コロナウイルスへの結合のしかたが少しずつ異なる2種類のモノクローナル抗体が含まれる。エイズウイルス(HIV)に対して複数の抗ウイルス薬を併用する「カクテル」療法と同じように、この抗体の「デュオ」もウイルスに対してより効果的だと考えられている。

10月3日、トランプ米大統領の容体について報告する主治医のショーン・コンリー氏(右)。米メリーランド州ベセスダのウォルター・リード軍医療センターにて(PHOTOGRAPH BY BRENDAN SMIALOWSKI, AFP VIA GETTY IMAGES)
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