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僕のネタで現実ぬりかえる 「地図塗りゲー」に共通点

立川吉笑

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NIKKEI STYLE

秋。10月1日になった瞬間から金木犀(きんもくせい)がいたるところで匂い、その示し合わせたかのようなタイミングに「自然ってすごいなぁ」と思った。あるいは、僕が所属する新作落語や浪曲を披露するユニット「ソーゾーシー」の全国ツアーが9月30日の東京公演でひとまず一区切りついたことで、その準備や重圧から解放され、数日前から漂い始めていた金木犀の匂いにようやく気づけたのかもしれない。もしそうだとすると「人間の認知はすごいなぁ」と思える。いずれにせよ、金木犀の匂いが好きだ。

「ソーゾーシー」で全国ツアー

今年のツアーはメンバーの一人である瀧川鯉八の真打ち昇進披露を兼ねていることもあって、「全公演客席数を半分以下に減らす」「感染リスクを減らすため、当日、会場でお金のやり取りをしなくていい仕組みを作る」など、考えうる限りのコロナ対策を講じながら、当初の予定通り北は北海道から南は沖縄まで全国15都道府県を回ることになった。

「数カ月ぶりに生の演芸に触れることができました」とか「鯉八さんに直接おめでとうと言えてうれしかったです」など、公演後にはこれまでよりも多くの温かい感想メールが届いて、「こちらこそ」とうれしい気持ちになっている。広島・愛知・兵庫・東京・福岡と5公演が終わり、残り10公演。無事に千秋楽まで全ての会を開催できますようにと、毎日祈っている。

そんな中、残りのツアーががぜん楽しみになってきたのは、10月1日にリリースされた「テクテクライフ」というスマホアプリの存在があるからだ。「地図塗りゲー」と称されるこのアプリは、その名の通り、地図を塗っていくだけのゲームだ。

ポケモンGOやドラクエウォークのように全地球測位システム(GPS)と連動していて、自分がいる場所の半径30メートルくらいの区画に色を塗ることができる。徒歩でも車でも自転車でも電車でも、手段はなんでもよくて、とにかくその場を通過したとGPSが認定すると、そのエリアを「塗る」ことができる。

たくさん塗ってポイントをためたら、一定時間だけ塗れる半径を広くしたり、自分が塗った隣の区画を塗ったりできるけど、基本的には倒す敵なんていないし、どれだけ塗ったところで何も起きない。せいぜいゲーム内で「上級スタンパー」などの称号をもらえるだけだ。これっぽっちも自分の得にはならないけど、それでも塗りたくなってしまうのだ。

そのうち飽きてしまうとは思う。それでも今のところ、先月に比べて一日の平均歩数が倍近くに増えた。新しいエリアを塗るために、いつもは通らない道を通ったり、最寄り駅の少し手前で降りて歩いて帰ったりしている。

ツアーで各地に伺うことが楽しみなのは、空港や駅についてからアプリを立ち上げ、普段では塗ることのできない土地を塗り進めることができるからだ。10月4日にあった福岡公演はテクテクライフをダウンロードした後だったから、福岡空港や公演会場だった福岡市美術館周辺を塗りに塗ってきた。東京に帰ってきてからは、すでに塗られた場所の隣接地を塗ることができる「となりぬり」の機能を使って福岡市をどんどん南下し、もうすぐ熊本市にたどり着くところだ。

振り返ると、この手の位置情報と連動するアプリが好きだとこの連載でも書いていた。「テクテクライフ」という1つのアプリの存在によって、もしかしたら一生歩くことのなかった道を歩くきっかけになる。そこで見つけた喫茶店が自分にとって大事な場所になるかもしれない。

自宅があるエリアはすでに100%塗ったのだけど、何年も住んでいる街なのに、半径500メートルくらいの範囲ですら見たことのない景色がたくさんあった。通ったことのない道がたくさんあった。そこで見つけた不自然に大きな木が妙に好きで、それ以降たまに寄り道して帰るようになった。

アプリ体験で世界が変わる

この体験はまさに拡張現実的というか、アプリを通すことで僕の現実世界が変容してしまったのだ。それはごくごくささいなことだけど、一方で僕にとっては世界が変わったということでもある。

思えば僕は落語を通して拡張現実的なことがしたいんだなと気づいた。「手動販売機」というネタは、自動販売機の中で働くことになった新入社員の話。このネタを聴いた帰り道、街で自販機を見たら、中に人が入っている気が少しはするはずだ。そう思って見たら一般的な自販機は大人2人が無理なく収まるサイズをしている。田舎町でたまにちょっと細いタイプの自販機を見た時には「1人用だ!」と感じるかもしれない。「舌打たず」というネタは、舌を打つ音を使って怒りだけでなく、あらゆる気持ちを表してみようという話。このネタを聴いたあとは、上司の舌打ちが気になって仕方なくなるはずだ。「あっ、今の音は喜びの舌打ちだ!」と思えるかもしれない。

自動販売機とか舌打ちとか、別にそれまでの人生ではクスっと笑える対象じゃなかったものを、僕のネタを通して少しでも面白がれるようになってもらいたい。僕のネタをきっかけにほんの少しだけでも世界が変わって見えてほしい。大げさかもしれないけど、地図塗りゲーによって確かに僕の現実世界は塗り替えられたのだから、落語にだって可能なはずだ。

立川吉笑
 本名は人羅真樹(ひとら・まさき)。1984年6月27日生まれ、京都市出身。京都教育大学教育学部数学科教育専攻中退。2010年11月、立川談笑に入門。12年04月、二ツ目に昇進。軽妙かつ時にはシュールな創作落語を多数手掛ける。エッセー連載やテレビ・ラジオ出演などで多彩な才能を発揮。19年4月から月1回定例の「ひとり会」も始めた。著書に「現在落語論」(毎日新聞出版)。
立川談笑、らくご「虎の穴」 記事一覧はこちら

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