眞島秀和 40代からの躍進「託されるって、うれしい」
今最も気になる"大人俳優"の筆頭が眞島秀和だろう。名バイプレーヤーとして数々の作品に出演しながら、2018年の連続ドラマ『隣の家族は青く見える』『おっさんずラブ』での印象的な演技で人気に火がついた。そして8月から放送された『おじさんはカワイイものがお好き。』(読売テレビ・日本テレビ系。Huluで配信中)では、ギャップで魅了するコメディ作品に主演。新境地を見せた。
近年はベテラン俳優にスポットが当たり、実力で作品を下支えする脇役たちが「主役」に起用される例が増えた。代表的な例として、40代では滝藤賢一やムロツヨシが挙げられるが、『おじさんはカワイイものがお好き。』では満を持して、眞島が連ドラの"顔"として登場した。
眞島といえば、ドラマのゲスト出演も含めれば、年間の出演作品が10本はくだらない名バイプレーヤーだ。多忙を極めるなか、潮目が変わったのは18年。1月期に『隣の家族は青く見える』で北村匠海とゲイカップルを、4月期に『おっさんずラブ』で、林遣都ふんする牧の元彼を演じた。立て続けに連ドラでインパクトを残したことで、一気に「気になる俳優」として浮上。19年には『サウナーマン~汗か涙かわからない~』で、連ドラ初主演を果たした。
そして『おじさんはカワイイものがお好き。』では、紳士的で仕事もできるが、かわいいものが好きな事実を隠しているという主人公の小路三貴を演じた。
(以下、撮影中に取材したときのコメント)「今井翼君や桐山漣君といった共演者のチームワークもとってもいいですよ。小路は僕と同じ43歳で、人に知られないように推しキャラの"パグ太郎"を愛してるっていう。かわいらしい役柄? いや、かわいく演じてるつもりはないです。うーん……、一生懸命生きてるっていう感じですかね(笑)。
職場にいるときや、素のときで、みなさんそれぞれの顔がありますよね。小路も、部下と接しているときや、甥の真純と一緒にいるとき、部屋に1人でいるときの顔があるので、その違いを意識して演じています。コントラストがあるので、モノローグとかも含めて、演じていて単純に楽しいですよ。
ストーリーとしては優しい人たちばかりが出てきて、人の純粋な部分が描かれているので、そこがいいなと思いました。原作マンガを今出ている4巻まで読ませてもらって、ヒントをもらっています。
演出の熊坂出監督は、『台本がすべてじゃないよ』と言って、自由にやらせてくれる方で。『3話のここのシーンのきっかけになったのって、2話のどこだと思う?』みたいに話し合いながら、人の気持ちの流れを大事にして、撮影を進めています。独特だと思ったのは、テストやリハーサルがとても少ないこと。こんな進め方もあるんだなって。監督独自のスタイルなんでしょうね」
昨年の『サウナーマン』でも主演しているが、このときは関西ローカル放送。『おじさんはカワイイものがお好き。』は全国ネットであり、より広い層に「主演俳優」として認知されたはずだ。この「40代になってからの躍進」を、本人はどう考えているのか。
「主演だからとか、脇役だからっていう区別はしていないです。『おじさんはカワイイものがお好き。』は役柄が面白かったので、ぜひやりたいと思いました。でもまあ、こうやって取材をしていただくことを含めて、作品を背負う部分はおのずと大きくなりますよね。
演じる割合が多いから、作り上げたキャラクターが、作品のイメージを担うことになる。プロデューサーさんたちとコミュニケーションを取らせていただいているうちに、思いが伝わってきましたし、熱意のある言葉を聞くと、僕もやる気がみなぎるというか。"託される"っていうことは、ありがたいですし、うれしいですよ。たくさんの俳優がいるなかで、僕を選んでくださったので、みなさんの期待に応えたいと思っています」
振り幅の大きい役にやりがい
大学時代に友達の影響で俳優の道を志し、99年に『フラガール』(06年)で知られる李相日監督の映画『青~chong~』で主演デビュー。以降、数多くの映画やドラマに出演し、その数は他の追随を許さない。20年のキャリアがあるなか、俳優活動の礎になるような作品はあったのか。
「特に印象に残っているのは、『スウィングガールズ』(04年)です。ずっと自主映画をやっていたんですが、その頃事務所に入って、なんでしょう……。この世界で生きていくっていうことがよく分からないなかで、どうやったら仕事が増えるんだろうとか、そんなことばかり気にして煮詰まってたんですよね。心が折れかけてたときに、矢口史靖監督に救ってもらったというか。方言指導のスタッフとしても入って、脚本作りから参加させていただいたんです。その現場がすごく楽しくて。みんなでものを作っていくことがやっぱり好きだと、改めて思えた現場でした。
NHKのドラマ『海峡』(07年)も転機になりました。それまでやってきた作品のなかでは、1番役柄を生きた時間が長くて、幸運な出合いでした。最近だと間違いなく『隣の家族は青く見える』と、『おっさんずラブ』です。この2作品は注目度が高かったので、これまでにない反響を感じましたね。
僕は昔から、自分の年齢でできる役をというのがベースにあるんです。そういう意味では、今回の『おじさんはカワイイものがお好き。』みたいな作品が出てきているのは、うれしいことですね。意識したことはなかったけど、これは乗っからないと(笑)。
同年代の同業者に思うことは、みなさんが活躍してくれると、こちらももらえる役の幅が広がるなって。例えば、滝藤賢一君が演じる人物の会社の同僚みたいな役があったら、できそうじゃないですか(笑)。それこそ、大河ドラマの『麒麟がくる』では、主演の長谷川博己君が演じる明智光秀と同年代の、細川藤孝役をいただけて。
最近は重厚なものからコミカルなものまで、役の振り幅が大きいのでワクワクしますし、俳優として非常にやりがいを感じてます。『わー、どうしたらいいんだろう』って悩むことも多いですが、そういう1つひとつを『楽しい』に変換しながら向き合っています。
若いときは『辞めたい』とか『大きな役をやりたい』とかあったけど、今はもう、そういうのはないです。今後もずっと役がいただけたら。これが自分の仕事ですし、とにかく続けていきたいです」
(ライター 内藤悦子)
[日経エンタテインメント! 2020年9月号の記事を再構成]
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