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小笠原伯爵邸 歴史をさんぽ、料理と味わう名建築

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NIKKEI STYLE

日経ARIA

特別な日に訪れたいレストラン、忙しい時間を忘れてゆったり過ごせる雰囲気のいいカフェ……。愛されるお店には、料理はもちろん、空間にも訪れる人を引き付ける魅力があります。「建築を知ることは、人生を豊かにする」と語る建築史家の倉方俊輔さんが、食欲と知的好奇心を刺激する、バラエティー豊かな建築の味わい方を紹介します。

最後の小倉藩主の長男、小笠原長幹伯爵の本邸

建築には物語があります。誰がつくったのか、笑みがこぼれる秘訣は何で、今の私たちの目の前に届くまでにどんな経過をたどってきたのか。口にすれば、おいしいと分かる一皿のように、心動かされる建築も、少し言葉を添えることで、味わいが深まるものかもしれません。料理と一緒に空間を旅し、歴史のさんぽを始めましょう。

「小笠原伯爵邸」はモダン・スパニッシュの名店です。本場スペインで修業を重ね、日本の食材にも造詣が深い料理長、ゴンサロ・アルバレス氏の技術と着想が、季節感豊かな逸品を生み出します。

一皿を囲む楽しみは、もっと広い空間にも及んでいます。都営地下鉄・若松河田駅が、小笠原伯爵邸の最寄り駅です。地上に上がれば、樹齢を重ねた大木の緑に映える、クリーム色の外壁に気づくでしょう。遠くに望む玄関部から、物語はすでに始まっています。先を急がず、一つひとつの空間を順に受け止めていきたいと思います。

店名は、この建物が最後の小倉藩主の長男、小笠原長幹(ながよし)伯爵の本邸だったことに由来します。江戸時代に小倉藩下屋敷だった敷地に1927年(昭和2年)に建てられました。イギリスのケンブリッジ大学に留学し、その後、貴族院の有力議員としても活躍した長幹の立場にふさわしい、西洋風の立派なつくりです。

完成した時、長幹は42歳、これを設計した建築家は74歳を迎えていました。開国以後、日本はヨーロッパの流儀に根差した建物を設計し、現場を指導して完成まで持っていける人間を必要としていました。彼らと対等の扱いをしてもらうためです。

政府はイギリス人のジョサイア・コンドルを工部大学校(現在の東京大学)の教師として雇い入れ、彼に本格的な西洋建築のつくり方を学ぶことにしました。最初に教えを受けた一人が、東京駅などを設計した辰野金吾です。辰野と同じ学年に片山東熊(とうくま)がいて、迎賓館赤坂離宮を手掛けます。彼らと同期の曾禰達蔵が、小笠原伯爵邸を完成させました。

当時の日本のニーズに合致したスパニッシュ・スタイル

建築家は、料理長に少し似ています。大きな方針を決め、人を育て、任せるべき部分を委ねて、評価を自分が背負います。曾禰は国内で本格的な建築教育を受けた最初の人物の一人です。明治末には後輩の中條精一郎とともに、曾禰中條建築事務所を開設します。小笠原伯爵邸を設計するにあたり、多くの経験を重ねてきた建築家はスパニッシュ・スタイルを選択しました。当時、最もモダンなスタイルの一つです。

なぜ、モダンと言えるのでしょうか? それは「スペイン様式」であるとはいえ、伝統的な形式にとらわれたものではないからです。このスタイルは1890年代から1920年代にかけて、アメリカ西海岸のカリフォルニア州を中心に流行し、「スパニッシュ・ミッション・スタイル」や「ミッション・リヴァイヴァル・スタイル」とも呼ばれます。ミッション(宣教)という言葉が入っていることから想像できるように、当地にかつて入植したスペイン人宣教師たちが残した建物の形を基にしています。

当時のカリフォルニア州は人口が増え、ハリウッドの映画産業などの新たな文化が生まれつつありました。そこにスペイン風の建築が、それまでお手本とされていたイギリス風、フランス風、イタリア風とは異なる、新鮮なスタイルとして登場します。特徴として挙げられるのは、屋根に鮮やかな色彩のスペイン瓦を用いたり、壁を粗いスタッコ(石灰に大理石粉や粘土を混ぜて練ったもの)で仕上げることで装飾に頼らない味わいを出したり、壁で建物の内外をきっぱり分ける代わりに中庭や半屋外の空間を活用したりといった点です。

こうした特徴がアメリカ西海岸のカラッと晴れた気候に似合い、東海岸とはまた違う文化圏であるという自負にも寄り添いました。素材そのものの性質を生かしていて、装飾にも空間にも工夫の余地が大きいことも、施主や建築家の創作意欲をかき立てた理由でしょう。人間の心身を中心に据えた自由度は、自分たちに合った洋風住宅を求めていた、当時の日本の事情にも適合していました。スパニッシュ・スタイルは、住宅を中心に1920~30年代の日本にも広まります。

入り口の扉上の装飾に潜む小鳥たち

スパニッシュ・スタイルの持ち味は、小笠原伯爵邸の外観からも分かります。壁には飾りがほとんどなく、玄関も中央を外した位置にあります。左右対称で威厳を強調するわけでなく、水平の庇(ひさし)もシンプルです。伯爵の邸宅にしては、ずいぶんあっさりしていると感じるのではないでしょうか。

けれど、近づくと素材を生かした独創的な仕事が目に入ります。入り口は上部の石にだけ、大胆な唐草文様が刻まれています。下から見上げたガラスの庇には、ブドウの実や葉のシルエットが浮かび上がっています。ブドウ棚を模しているのです。両者はあふれる生命力のイメージにおいて響き合います。

それは内部に続きます。扉上の鉄製装飾の葉の中に、数羽の小鳥が潜んでいます。真ん中の小鳥だけ籠の中にいるようですが、続く広間の天井では解き放たれています。天井のステンドグラスには、自由に大空を舞う8羽の鳥が、見上げた構図で描かれています。手掛けたのは、日本にステンドグラスを定着させた名作家・小川三知(さんち)です。彼はあまり遠近法を強調しない作風なのですが、こちらは珍しくダイナミックな構図。スペインで多く建てられたバロック建築に用いられるトロンプルイユ(だまし絵)に敬意を表したのでしょうか。それでも余白を生かし、抽象化した描き方に、ステンドグラスの技術を習得する以前に日本画を学んだ彼の個性が存分に発揮されています。

部屋の用途に応じた正しいスタイルで装う

大廊下を抜けた先がレストランのメインダイニングですが、その途中にも語るべき点が多いのです。最初に現れる部屋は以前の食堂です。壁に木材を巡らした格式は、晩さんのための正式な空間であることを告げます。中央に据えられた重厚なテーブルは、実際に伯爵邸で使用されていたものです。隣の応接室は一転、やわらかな雰囲気に包まれています。アイボリーの壁とロココ調の装飾も、小川三知によるブーケを思わせるステンドグラスも、くつろいだ応接に貢献します。さらに奥の喫煙室に至ると、天井や床にアラベスク文様を施したイスラム風が豪勢な印象です。ヨーロッパのたばこがトルコやエジプトから入ったことにちなむものです。

各部屋の目的に応じた正しいスタイルで装うことが、第2次世界大戦以前の西洋のマナーでした。その学習を最初期から行っていた建築家の経験値がうかがい知れます。廊下のもう一方には中庭が設けられていて、明るい光が差し込みます。最新のスパニッシュ・スタイルを導入し、生活の場としての健やかさを重視したことが分かります。

南側の庭に面して、書斎、寝室、ベランダといった家族の空間がありました。現在はテラス席のあるメインダイニングになっています。さあ、運ばれてくる一皿一皿を楽しみましょう。色鮮やかな食材が、絵画のように豊かに盛り付けられ、自然を取り入れた建築のつくりが料理をいっそう引き立てます。

小笠原伯爵邸は、私たちを育む太陽と同じくらい、おおらかで繊細に、生命の賛歌を歌うかのようにつくられています。素材を熟知し、技量を備えた職人たちによる、驚くほどの手間がかけられた共同作業が、集う人々を主役にします。建築も料理も、モダンなスパニッシュなのです。

小笠原伯爵邸
竣工:1927年
設計:曾禰中條建築事務所
住所:東京都新宿区河田町10-10
電話:03-3359-5830
<お店情報>(2020年10月、11月)
○ランチ:通常営業
11時30分~15時00分 最終入店 13時00分
○ディナー:短縮営業
平日: 18時00分~21時00分 最終入店 19時00分
土日祝:17時30分~21時00分 最終入店 19時00分
※コースGran Condeのみ18時30分最終受付
倉方俊輔
建築史家、大阪市立大学准教授。1971年東京都生まれ。日本近現代の建築史の研究と並行して、建築の価値を社会に広く伝える活動を行っている。著書に『東京レトロ建築さんぽ』(エクスナレッジ)、『東京建築 みる・あるく・かたる』(京阪神エルマガジン社)、『伊東忠太建築資料集』(ゆまに書房)など、メディア出演に「新 美の巨人たち」「マツコの知らない世界」ほか多数。日本最大の建築公開イベント「イケフェス大阪」実行委員、東京都品川区で建築公開を実施する「東京建築アクセスポイント」理事などを務める。

(文・写真 倉方俊輔)

[日経ARIA 2020年6月3日付の掲載記事を基に再構成]

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