スマホでは味わえぬ音の世界 高級音楽プレーヤー3選
「年の差30」最新AV探訪
在宅ワーク中に音楽を聴いてストレス解消、という人も多いだろう。スマートフォンで音楽を聴く人が増えている中、DAP(デジタルオーディオプレーヤー)の世界では高音質化が進んでいた。ガジェットとしての魅力的なデザインや徹底的な音作りにこだわることで、スマホとの差異化を図ってきた結果だ。昭和世代のAV評論家がお薦めするDAP3機種を、平成生まれのライターと一緒に聴き比べた。
音質に特化した専用機ならではのクオリティー
小原(56歳のオーディオ・ビジュアル評論家) 今回はDAPの紹介です。
小沼(28歳のライター) 正直な話、ここ数年はスマホで音楽を聴く人が主流だと思います。専用機器で音楽を聴くメリットは何でしょう?
小原 今はハイレゾを楽しめるスマホもありますからね。でも、いい音で聴くならやっぱり専用機ですよ。スマホは電話、ゲームなど様々な用途で使えるよう作られていますが、専用機はパーツや回路などを音質の向上に特化させています。メモリーにも音楽データだけ入れればいいので、写真やアプリの容量のために楽曲を削除したり、ビットレートを下げたりする必要がありません。より高音質で音楽を聴きたいなら、再生機器にこだわるという選択もあると思います。
小沼 そうして今回小原さんがピックアップしたのはアステルアンドケルン「SA700」(14万9980円)、FiiO「M15」(18万2112円前後)、ソニー「NW-ZX507」(8万8000円)の3機種です。僕からするとどれもなかなか高額ですが……。
小原 数十万円を超えるDAPも珍しくないですし、今回紹介する製品は価格に見合うクオリティー。決して高すぎることはないと思いますよ。それに小沼くんが普段使っているストリーミング配信でも、音質の良さを実感できますから。では、1つずつ見ていきましょう。
所有欲を満たすハイエンドDAPの先駆者 アステルアンドケルン「SA700」
小沼 まずは「SA700」から。小原さんはアステルアンドケルンのDAPをずっと使い続けているんですよね。
小原 今は2017年に発売された「A&ultima SP1000」というフラッグシップモデルを使っています。アステルアンドケルンは韓国のアイリバー社のブランドで、同社の高級路線として12年に最初の製品が発売されました。DAPに高級感のあるデザインや、より高音質が楽しめるバランス接続を早くから採用し、高級DAPの先駆者的存在です。
小沼 この「SA700」もかなり高級感がありますよね。手に持ったときもずっしりしていて、重量は303グラム。iPhone 11が約200グラムなので、1.5倍ほどです。
小原 携帯性とは逆行するかもしれませんが、こうした製品としての格好良さを追求できるのもDAPの魅力です。発光ダイオード(LED)で色を変えながら光るボリューム調整のインジケーターもシャレていますね。アステルアンドケルンはこうした使う人の所有欲を満たしてくれる物づくりをしているのも特徴です。
小沼 音質はどうでしたか?
小原 私は自分の持っている音源をSDカードや内蔵メモリーに入れて聴きました。ジャズやクラシックを聴きましたが、アコースティック楽器の有機的な響きや滑らかさをうまく引き出せています。大編成のクラシックでも、スケール感とバランスに優れていて、高域から低域まで整った音だと感じました。
小沼 僕はApple Musicなどのストリーミングで試しましたが、確かに整った繊細な音だと感じましたね。正直、再生機器を変えるとストリーミング音源でもこれだけ違うのかと驚きでした。
高級感と操作性の良さの両立 FiiO「M15」
小沼 続いてはFiiO「M15」。FiiOはどんなブランドでしょう?
小原 FiiOは中国のメーカー。近年高級路線に力を入れていて、ぐっと評価が高まってきました。特にこの「M15」は評価が高く話題になりました。デザインが洗練されているし、画面が大きくて見やすくきれい。高級感と使いやすさを追求していると感じました。
小沼 サイズや重量は「SA700」に近いですね。音質はいかがでしょう?
小原 「SA700」と比べると、若干デフォルメされた音です。ビートの効いた音楽はビートがよりはっきり感じられますし、高域もガツンと強めに響いてくる。音楽の特質をしっかり出してくれると感じました。解像感が高く、細かな音がよく聴こえるのも特徴です。
小沼 「M15」はAndroid OSを搭載していて、スマホと同じ感覚で様々なアプリをダウンロードできます。ストリーミングサービスをインストールする手順もわかりやすいですし、最近増えつつあるアプリで操作する完全ワイヤレスイヤホンを使いこなせるのがいいですね。専用機の高音質と、完全ワイヤレスの凝ったイコライザーやノイズキャンセリング機能を、どちらも堪能できるのは魅力だと感じます。
アップスケーリング機能でストリーミングを高音質に ソニー「NW-ZX507」
小沼 最後がソニーの「NW-ZX507」。他2つと比べると小ぶりで、デザインもカジュアルです。
小原 ソニーのウォークマンと言えば、ポータブルオーディオの代名詞といえる存在。でも、DAPではまずiPodに押され、その後の高級DAP市場でも後れをとり、なかなかインパクトを残せませんでした。名誉挽回してきたのがここ5、6年のこと。アステルアンドケルンなどとは正反対の「軽さ」を打ち出した製品で、他にない存在感を示しています。
小沼 「SA700」などのずっしりとした高級感もいいですが、個人的にはこの手軽さに引かれるなあ。こちらもAndroid OS搭載で操作性に優れています。
小原 音はS/N比(信号に対する雑音の割合)に優れていて周波数レンジが広く、バランスがいいですね。小さな音と大きな音のレンジ感がダイナミックで、突然大きな音が鳴っても飽和感がありませんでした。
小沼 「NW-ZX507」は独自のアップスケーリング機能でストリーミング音源を高音質化してくれるのもポイント。そのためか、よりクリアで迫力のある音質に感じました。僕のようにストリーミングで聴くことが多い人にはオススメです。
DAPに慣れると、もうスマホには戻れない?
小沼 3機種聴いてみて、小原さんのオススメはどれですか?
小原 私はやっぱり「SA700」ですね。アステルアンドケルンを長く使っていることもあるけれど、デザインも音質もこれが一番。他の2機種と違ってAndroid OSではないのでイヤホンのアプリを使えないのは難点ですが、それを補ってあまりある魅力を感じます。小沼さんはどうですか?
小沼 僕は携帯性に優れていて、ストリーミングを高音質化してくれる「NW-ZX507」が自分に合っています。でも、今回「SA700」や「M15」もさすがの作り込みだと感じました。これに慣れちゃうと、もうスマホで聴くのには戻れないだろうなあ……。
小原 僕なんかはやっぱりDAPを使い続けているから、スマホは音楽を聴くものじゃないと思っていますよ(笑)。でも、プレーヤーでこれだけ音質が変わることがわかったと思います。音楽に一家言ある人なら検討してみる価値があると思いますよ。
1964年生まれのオーディオ・ビジュアル評論家。自宅の30畳の視聴室に200インチのスクリーンを設置する一方で、6000枚以上のレコードを所持、アナログオーディオ再生にもこだわる。今回の試聴で使ったアルバムは「ジョン・ウィリアムズ・ライヴ・イン・ウィーン」(ユニバーサル)など。
小沼理
1992年生まれのライター・編集者。最近はSpotifyのプレイリストで新しい音楽を探し、Apple Musicで気に入ったアーティストを聴く二刀流。今回の試聴で使ったアルバムは「フルフォニー」(蓮沼執太フルフィル)など。
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