日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/10/26

ホルト氏は、今回の論文と同じ分析技術を、他の反射領域を含むより幅広いデータセットにも適用するよう提案している。また、電気の通しやすさを測る誘電率も、レーダーで観測する限り低すぎるとも指摘する。

「もし湖か、大量の液体があるとすれば、その値は観測された値よりもはるかに高いはずです」。たとえその値に説明がつけられたとしても、極寒の地で塩水が液体の状態を維持できるのはなぜかという説明が次に必要になってくる。

液体の水は「最後の生き残り」か

火星の極地で、氷はそう簡単に解けることはない。表面の気温は、常にマイナス170度前後を行ったり来たりしている。氷の下はわずかに温かいが、水が液体のまま存在できるほどの温度には遠く及ばない。

19年、ペティネッリ氏らの観測結果を分析した2人の科学者が、最近のマグマ活動によって南極の地下で暖かい場所ができたという仮説を提唱した。若いマグマだまりが開いて十分な熱を供給し、塩水を液体の状態に保っているのではないかというのだ。地下に熱源がなければ、液体の水が存在することの説明は困難だ。

仮説を発表した1人である米パデュー大学のアリ・ブラムソン氏は、「液体の水だと期待していますが、気温が低すぎるという点だけが引っかかります」と、メールで述べている。

ペティネッリ氏の研究チームは、火山活動で氷が解けたとする説には、いくつものあり得ない条件が重ならなければならないとして懐疑的だ。むしろ、火星の塩水の場合、低温でも液体の状態を保てるような化学組成になっているのではと考えている。

米国、惑星科学研究所のスティーブ・クリフォード氏は、最新の観測結果によって火星の海が消滅した謎を解明できるのではと期待する。「はるか昔に気候が寒冷化し、海が凍結して、そのまま昇華した可能性があります」

昇華とは、氷が解けることなくそのまま蒸発したということだ。こうして飛散した水蒸気は、大気中を漂ってもっと寒い火星の極地へ到達すると、そこで氷として堆積した。クリフォード氏は、かつて火星の極冠は今よりも広く、内部の熱の流れもずっと活発だったと指摘する。その熱に温められて極冠の底が少しずつ融解し、地下へしみ込んだと考えられる。

長い時間をかけて、火星の失われた海は、地下水や永久凍土層として残されたのだろうか。今も残る液体の水は、その過程の最後の生き残りで、そこには有害な放射線から守られた生命が、数十億年もの間存在し続けてきたのかもしれない。

「もしそれが液体の水であれば、面白いことになりそうです」と、ブラムソン氏。「私たちは皆、液体の水であってほしいと思っているはずです」

(文 NADIA DRAKE、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年9月30日付]

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