日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/10/26

その後、15年~19年の間にさらに範囲を広げて105回の観測を行った。新たなデータは、地球上の極地で氷床の下の湖を探査する際に使われる技術を使って処理された。そして湖が液体の水であることが裏付けられただけでなく、その周りに少なくとも3カ所、乾いた土に隔てられた水域が存在していることも明らかになったのだ。

大きな湖が液体であるというチームの考えに変わりはない。ただ、その周りの小さな水たまりの方は、泥状の沼という可能性もあると考えている。泥沼であっても、生命を支えることは可能だ。

失われた火星の海、水はどこへ?

地球以外にも、太陽系には土星の衛星や木星の衛星に水が豊富に存在することが知られているが、火星でそれを探すのは予想以上に難しかった。削られた川床、扇状地、古代の海岸線など、火星の表面にはいたるところに水の痕跡が見られるため、かつての火星は今よりもはるかに水が多かったことはわかっている。気候は穏やかで、生命に適した環境だった可能性もある。

当時の気候が正確にどのような状態だったのかは議論の余地があるが、早い段階で火星の気候が変わり、豊かな水の世界から今のような乾いた星へと変貌したことはわかっている。では、火星にあった大量の水はいったいどこへ行ったのだろうか。

そのうちの一部は、極地を覆う氷冠に閉じ込められている。この万年氷は、季節ごとに縮小と拡大を繰り返す。望遠鏡で光り輝く極冠を観測した研究者たちは、そこに火星の歴史が刻まれているのではと考え、数十年間研究を続けてきた。

別の探査機はとらえていなかった

米アリゾナ大学の火星研究者ジャック・ホルト氏は、新しいデータは以前のものよりも説得力はあるものの、観測結果をチームが正しく解釈したかどうかは疑問だとしている。というのも、別の探査機マーズ・リコネッサンス・オービターのレーダー装置は、この明るい領域をとらえていないのだ。こちらの装置は観測している周波数が異なるため、堆積層の底まで見通せない可能性はある。しかし、そうだとしても湖ほどの強い反射は見えるはずだと、ホルト氏は言う。

また、マーシスがその付近で観測した同様の明るい領域に関しても、その正体が何なのか説明されていない。こちらは氷床の端の方まで広がっているが、これが液体であれば氷床の端から外へ流れ出ているはずだと、ホルト氏は指摘する。「彼らの理論を適用すれば、氷河の端に沿って水が湧き出るはずですが、それは観測されていません」

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液体の水は「最後の生き残り」か
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