2020/10/24

モデルの限界と次のステップ

ただし、この研究結果には重要な注意点がある。それは、モデルが扱う範囲をグリーンランドの南西部に限定し、その計算からグリーンランド全体の状況を推定している点だ。これには理由がある。南西部の氷床の融解は大部分が気温によって引き起こされているため、海水温の上昇や氷河の崩壊の影響が少なく、物理的特性が比較的シンプルで扱いやすいからだ。

とはいえ、モデルから導き出された氷床の減少は、過去40年間の観測データとほぼ一致しており、計算結果が裏付けられた形だ。それでも研究チームは次のステップで、モデルをグリーンランド全体に適用し、さらに、氷を解かしたり崩壊させたりするその他のプロセスも組み込みたいと考えている。

グリーンランド南西部は「近年、融解が著しく進んでいる地域のひとつですから、残りの氷床全体がどのように変化するのかを示す適切な指標です」とデンマーク気象研究所の雪氷学者ルース・モトラム氏は語っている。なお氏もこの論文には関与していない。

モトラム氏は、論文の著者たちが氷河モレーン(氷河が後退した後に残った岩石などの堆積物)を使い、モデルがはじき出した氷の増減が実際の証拠と合致しているかを確認した点に注目している。「現場の証拠とモデルの結果を組み合わせることで、過去の気候、ひいては将来の予測の信頼性が高まります」

一方、米アイダホ州にあるボイシ州立大学の雪氷学者エリン・エンダーリン氏は、グリーンランド南西部から氷床全体に推定を拡大するのは「ちょっと無理がある」と感じている。

「この論文では、現在の(氷の)質量が減る傾向が、南西部とグリーンランド全体とで似ているとされていますが、氷床の形状が現在と異なれば、この関係は長期的には成り立たないでしょう」とエンダーリン氏は指摘する。

多くの氷河が海に流出する大規模な氷床ならば、融解は「その氷河系固有の不安定さに大きく左右されるでしょう。この論文のように南西部の氷床をモデルとした減少パターンとは、一致しないかもしれません」と氏は言う。

グリーンランドの過去と将来をもっと詳細に解き明かすには、さらなる取り組みが必要だ。だが現時点でも科学者たちは、次のように確信をもって言えるだけの十分な証拠を集めているとスカンボス氏は話す。人類が針路を変えない限り、グリーンランドはおろか地球全体の気候が劇的に変わってしまうのだ、と。

「気候について言えば、私たちはアクセルペダルの上にレンガを載せてしまったようなものです」とスカンボス氏は言う。「私たちが変わらない限り、止めることはできません」

(文 MADELEINE STONE、訳 稲永浩子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年10月2日付]

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