日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/10/23

明暗を分けた呼吸法の違い

哺乳類の祖先が繁栄した世界から爬虫類が支配する世界への変化は、一夜にして起こったことではない。

「大災害後の時代に、爬虫類が一瞬にして既存のグループに取って代わったというわけではありません」。バージニア自然史博物館の古生物学者アダム・プリチャード氏はそう語る。

のちに恐竜を生み出す主竜類(Archosauria、「支配的な爬虫類」という意味)が台頭するのは、三畳紀に入って500万年から1000万年たってからのことだ。現在知られている最古の恐竜である、2億4300万年前に生息していたニャササウルスは、ジャーマンシェパードほどの大きさの痩せ型の雑食動物で、虫やシダ類をよく食べていたと考えられている。

三畳紀になって、なぜこれらの爬虫類が哺乳類の祖先よりも優勢になったのかについては、長い間議論が交わされてきた。その理由のひとつとして有力視されているのが、彼らの呼吸法だ。

哺乳類の祖先たちの肺は、息を吸うときも吐くときも動かすタイプだったと、米ルイジアナ州立大学保健科学センター・ニューオーリンズの古生物学者エマ・シャクナー氏は言う。この動きには肺全体がかかわり、空気中に大量の酸素があるときには有利に働くが、「酸素が低下すると、問題が出てくるかもしれません」

一方、恐竜の祖先を含む爬虫類の呼吸法は異なっていた。彼らの肺は、片側からポンプのように空気を送り、反対側で酸素を取り込む一方通行式だった。こうした体の構造のおかげで、爬虫類(ヘビやトカゲ、恐竜から進化した鳥類などの現在の種も含む)は、高地などの酸素が少ない環境下において、より効率的に呼吸することができる。

「主竜類の呼吸システムが、単弓類よりもすぐれていた可能性はあります」と、ボタ氏は言う。おかげで爬虫類は、大量絶滅後、何百万年も続いた低酸素の環境に、より適していたかもしれない。酸素レベルの低下は哺乳類の祖先を不利な状況に追い込んだが、爬虫類はほとんど影響を受けなかったと、シャクナー氏は言う。

しかも、辛うじて生き残った爬虫類にとっては、競争相手のほとんどが消えていた。そこで彼らはさまざまな環境へと進出し、同じくぎりぎり生き延びた哺乳類の祖先が生息する余地を奪っていった。

こうして、三畳紀においては主竜類などの爬虫類が陸上の優勢な脊椎動物となり、なかでも支配的だった主竜類が、やがてワニ類や恐竜、翼竜に枝分かれする。

「ワニ類にはあまり見られませんが、これらの爬虫類たちは、くちばし、帆のような背ビレ、ひづめといったおかしな解剖学的適応を遂げていました」とシャクナー氏は言う。

「恐竜は、三畳紀に豊富に生息していた奇妙な爬虫類群の一つにすぎません」とプリチャード氏は述べている。

ワニの祖先が支配的だった三畳紀

三畳紀の初期に枝分かれした主竜類のなかで、まず支配的な立場を得たのはワニの祖先だった。彼らの一部は恐ろしい肉食動物に進化を遂げた。

このとき、恐竜の祖先はまだ小さな生きものたちだった。彼らは下草の中で、ちょろちょろとかけまわり、新たな生き方を模索し始めていた。

その小ささゆえに、彼らの化石を見つけるのは簡単ではない。小さくて壊れやすい骨は、大きくて頑丈な骨格よりも化石として残る可能性が低く、かつての古生物学者たちは、目立ちやすい大型の動物を発見することに焦点を当ててきた。

ところが最近の発見により、最初期の恐竜は、専門家が考えていたような、ライバルを直接打ち負かすどう猛な生き物ではないことがわかってきた。彼らは敵をなぎ倒して頂点にたどり着いたわけではなく、むしろ日和見主義者として成功したのだ。

アメリカアリゲーター(Alligator mississippiensis)は、恐竜と翼竜とワニが含まれるグループである主竜類の一種だ(PHOTOGRAPH BY ANDY MANN, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
次のページ
小さいことの利点
ナショジオメルマガ