ひらめきブックレビュー

大企業はそんなに悪者なのか? データで検証してみた 『BIG BUSINESS――巨大企業はなぜ嫌われるのか』

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私たちの日常は、住宅や家電、移動、保険など、多くを大企業の商品やサービスに依存している。また、新型コロナウイルスの猛威の中、短期間で医療機器やマスクの生産・増産に踏み切ったのは大企業だった。

ところが米国の場合、大企業への信頼度は低く、強欲な振る舞い、消費者の幸せを軽んじる姿勢などを連想する人が多いという。メディアは企業の汚職や労働者からの搾取といったニュースを大きく取り上げるし、フェイスブックやアマゾン・ドット・コムなどは市場独占を批判される。しかし、本当に、大企業は悪なのだろうか? 本書『BIG BUSINESS――巨大企業はなぜ嫌われるのか』は、「企業はもっと愛されていい」と訴える大企業擁護論だ。著者のタイラー・コーエン氏は、米ジョージ・メイソン大学経済学教授。

■CEOの高額報酬は妥当か

本書は、主に米国における大企業批判、大企業への不信感について、その多くが誤解や誇張されすぎであることを、さまざまな調査や数字をあげながら論証する。

一例が、CEO(最高経営責任者)の高額報酬だ。CEOは、都合のいい報酬制度をつくっているなどと批判される。しかし著者は、報酬がつりあがるのは株主や取締役会が優秀な人材の奪い合いをするからであり、不当な私利私欲の結果ではないと指摘。問題点はあるとしながらも、現状の仕組みはもっと評価されるべきだと主張する。この仕組みこそ、米国から世界経済をけん引する多くの企業が生まれる原動力であるからだ。

巨大テクノロジー企業も擁護する。例えば、グーグルはオンライン広告市場を独占し、広告料の高止まりを招いているなどと批判される。しかし著者は、もし広告料を高くすれば、広告主は、テレビやラジオの広告に戻るか、新しい広告媒体を試すだけなので、グーグルが広告料を高くすることはできないと解説する。ただし、テクノロジー企業による個人情報の蓄積などのプライバシー侵害について、データの保管と活用のルールが不透明であることなど、課題を指摘するのも忘れない。

■大企業への過剰な期待

なぜ米国人は、大企業が嫌いなのだろうか。著者は、人々が企業を擬人化し、過剰期待することが一因と見る。幼児には両親が万能に見えるように、人々には大企業が万能に見える。しかし実際は、両親が社会に対して持つ力は小さいように、大企業とて万能ではない。ところが人々は、消費者としては十分な商品の保証やサービスを期待し、勤務先には福利厚生やオフィス環境の整備を求め、それに応えてくれないという理由で不信感を持つ。両親(大企業)のダメな部分を知りながらも感謝するような、「大人の視点」が欠けているのかもしれない。

本書はこのほか、金融業、政府と大企業との関係など、多方面の大企業批判について反証している。さて、日本国内の状況はどうだろうか。大企業のコンプライアンス、商品の品質などに対しては厳しい目が向けられるケースが多い。大企業と消費者や従業員との関係を再考するきっかけとなる一冊だ。

今回の評者=前田真織
2020年から情報工場エディター。2008年以降、編集プロダクションにて書籍・雑誌・ウェブ媒体の文字コンテンツの企画・取材・執筆・編集に携わる。島根県浜田市出身。

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