「糖質ゼロ」といえば、発泡酒や第三のビールでこそ可能だが、ビールでは実現が難しい…。そんな常識を覆し、ついに糖質ゼロのビールが登場した。かつては“ビール党”だったけれども、「糖質が気になるのでハイボールを飲んでいた」という人も、待ち望んでいた糖質ゼロビール。果たして、どのような技術で実現したのか。そして、気になる味はどうなのか? 酒ジャーナリストの葉石かおりが開発者に話を聞いた。
ハイボールに“浮気”していたビール党に朗報!
「最近、太っちゃったし、ビールは飲みたいけど、糖質ゼロのハイボールにしとくわ」
ここ数年、飲み会で、自分も含めた酒飲みがこんな言葉を口にするのを何度も聞いてきた。そう、ビールは大好きである。昭和生まれの酒好きからすれば、「最初の一杯」といえばビール、ギョーザのお供といえばビール、そして風呂上がりにもビール、という図式が頭にある。
しかし、その図式を揺るがすブームが到来した。「糖質オフダイエット」ブームである。それまでのダイエットといえばカロリーを抑えるのが主だったのに、糖質オフが叫ばれるようになってから、皆、手のひらを返したように糖質を敵視するようになった。そして、悲しいかな、あのおいしいビールまでもが対象になったのだ。
ホントはビールをゴキュゴキュ飲みたい。でも糖質が気になるし、ダイエットもしているし、やっぱりやめておこう……。
こんなふうに思っている酒好きはごまんといるはず。そんなにビールが好きなのに、糖質が気になって飲めなかった酒好きにとって、ありがたいビールがキリンビールから発売された。それが、「一番搾り 糖質ゼロ」だ。

糖質ゼロといえば、第三のビールや発泡酒ではすでに定番となっていたが、今回は正真正銘のビールである。
ちなみに、同社の従来のビールの糖質量はどれぐらいかというと、「一番搾り」では2.6g(100mL当たり)である。米やパンなどに比べれば少ないと思うかもしれないが、ちりも積もればなんとやら。また、酒の席では、お酒だけでなく、おつまみからも糖質を十分に摂取するのだから、そりゃビールは糖質ゼロのほうがいいに決まっている、と思うのだ。
ではこの「一番搾り 糖質ゼロ」はどうやって糖質ゼロを実現したのか、味は本当にちゃんとビールなのか? 飲む前から気になること満載である。
これはもう話を聞くしかない、ということで、「一番搾り 糖質ゼロ」の技術開発を担当されたキリンホールディングス飲料未来研究所の廣政あい子さんを直撃した。
開発に5年、試験醸造は350回以上

ビールを我慢していた酒好きから「待ってました!」と声がかかりそうな今回のビールですが、開発するに当たり何かきっかけはあったのですか?
「今から5年前、私の育児休業中に聞いた友人の『ビール大好きなんだけど、体形も気になってきたし、最初の一杯で我慢しておこう』という何気ない一言がきっかけでした。もしかして、こういう方が多いのかなと思い、会社に提案したところ、社員の中にも同様のことを言う人がいて驚きました」(廣政さん)
糖質を気にすることなく、ビールを気兼ねなく、おいしく飲んでほしい。また、ビールは好きだけど、健康維持のためにハイボールに切り替えているという方のために、糖質ゼロのおいしいビールを作りたい。
そんな思いを持って、2015年の春から開発をスタートした。試験醸造は実に350回以上。廣政さんによると、「ビールの一般的な商品の試験醸造は数十回程度」だというので、いかに糖質ゼロのビールを作るのが難しいかが分かる。
しかし、糖質ゼロの第三のビールはたくさんあるのに、なぜ糖質ゼロのビールを作るのは難儀なのだろう?