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G-SHOCK完成の突破口、糸口は公園 海外から人気に火

カシオ計算機 伊部菊雄(最終回)

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NIKKEI STYLE

日経クロストレンド

G-SHOCK開発で窮地に立たされていたカシオ計算機の伊部菊雄。突破口へ導いたのは公園で遊んでいた子どもたちの風景だった。何とか発売にこぎ着けたものの市場で認められるには長い年月が必要だった。爆発的ヒットから「メタルG」誕生までのストーリーに迫る、G-SHOCK開発秘話の最終回。

公園での子どもの遊びに着想を得た

東京都羽村市にあるカシオの羽村技術センターの隣に小さな児童公園がある。伊部菊雄は昼食をとった後、公園のベンチで一人たたずんでいた。

目の前にはゴムボールで遊んでいる小さな子どもがいた。「子どもはいいな、悩みがないのだから」と、思いながらそのさまを眺めていた。『落としても壊れない丈夫な時計』という案を出した後、何度実験をやっても解決策が見つからない。完全に袋小路に入っていた。

そのとき、子どもが突いているゴムボールの中に、時計の心臓部――モジュールが浮かんでいるのが見えた。

それまで伊部は、モジュールを金属やゴムなどで覆い、いかに衝撃を段階的に吸収するかを考え続けていた。しかし、緩衝材で吸収されたはずの衝撃が残っており、モジュールの電子部品を壊していた。ゴムボールの中で浮かんでいるような構造にすれば、100メートルの高さから落としても衝撃は時計には伝わらないはずだ。

「不思議なのは、劇的な解決策が頭に浮かんでいるのに、午後、会社に戻って図面も書いていないし、実験もしていない。もうスキップして、ルンルンでうちに帰っているんです」

翌日の月曜日、伊部は出勤するとすぐに図面を引いた。モジュールが浮いている状態に近づける構造だった。「吸収」と「浮遊」という2つの方向で衝撃を完全に消そうとしたのだ。

「それから2週間ぐらいして最後の試作品が出来上がってきた。そのあたりの記憶はないんです。もう、手を尽くしたという感覚だったんだと思います。ものすごくすっきりしていましたから」

この試作品は3階の高さから落としてもびくともしなかった。落としても壊れない丈夫な時計、『G-SHOCK DW-5000C』は1983年4月に発売された。しかし、開発の苦労に見合うだけの反響はなかった。

「(売れなかったことに対する)感情は何もないです。時代は軽薄短小、薄型(デジタル時計)です。時代に逆行しているのですから、開発しているときから売れないだろうなと思っていました。これが評価されるには、世の中の大きな変化が必要だと分かっていました。

ただ、確実に役に立つ。そもそも道路工事の人がターゲットだったわけです。自分の提案をやりきれたこと、そして役に立つこと、それでもう十分でした」

人気に火がついたのは海外から

状況が変わったのは約10年後だった。羽村技術センターへの電車通勤の途中、青梅線に乗っていたとき、若い人たちがG-SHOCKを身に着けていることに気がついた。G-SHOCKが若者を中心に人気となっていたのだ。

最初に火が付いたのは海外だった。きっかけは84年に米国で流れたCM。アイスホッケー選手が氷上に置かれたG-SHOCKをパック代わりにスティックで打ち、ゴールキーパーがミットに収めるという演出が大きな話題になった。さらに人気番組がCMと同じ状況で実証実験を行った結果、「衝撃に耐え、正確に時を刻み続ける時計」として米国で広く認知された。アウトドア愛好家や消防士、警察官を中心に受け入れられ、人気ブランドに。80年代後半には、人気バンド・ポリスのフロントマンであるスティングがG-SHOCKのDW-5700を愛用していることもファンの間で知られるようになった。

日本での人気は90年代に入ってから。アメリカンファッションが雑誌で紹介され始めたことがきっかけだった。国内でストリートファッションが流行したのに伴い、G-SHOCKも注目を浴び始めた。当時米国のスケーターに人気だった「DW-5900」は国内未発売だったため、輸入小物としてアパレル店に並び始め、ファッションに敏感な若者の間で徐々に浸透。94年公開の映画『スピード』で、主演のキアヌ・リーブスの腕にG-SHOCKのDW-5600Cが巻かれていたこともあり、人気が拡大していった。

認知度が上がるとともに、歴代モデルの系譜を図解で紹介する記事がファッション雑誌をにぎわせたため、過去のモデルにも視線が注がれるようになり、「G-SHOCK旋風」が巻き起こった。国内の年間出荷個数は90年の約1万個から95年には約70万個と急拡大し、異例のヒット商品に成長。若者のファッションに取り入れられた初めてのデジタルウォッチとなった。

それまでのデジタル時計が目指していた薄さに逆行した、分厚さ、頑丈さ、無骨さがファッションとして受け入れられたのだ。「ようやく努力が報われた」とうれしかったのでは、と問うと伊部は首を振った。

「自分がG-SHOCKの開発に関わったのは2年ほど。最初は売れなくて、ブレークするまでには営業、販売を含めて多くの人がものすごく苦労しているんです。そういう人たちに対して、ああよかったなと。自分のことというよりも、客観的に見ていた感じですね」

伊部はG-SHOCK開発の後、91年に時計設計部から商品企画部に異動していた。『チープカシオ』と呼ばれる安価な腕時計の企画を立ち上げていた。だが、G-SHOCKの大ヒットを受けて、伊部は再びG-SHOCKに引き戻される。

次なる課題は「フルメタル」化

「せっかく若い人にG-SHOCKが広がったのだから、ずっとG-SHOCKファンでいてもらいたいと思ったんですよ。じゃあ、何が必要なんだろうって思ったときに、年を重ねたときに着けたくなるのはフルメタルのG-SHOCKだろうと。そこで今度は会社の了解をとって、メタルGを作るプロジェクトを立ち上げたんです」

94年のことだった。プロジェクトに集められたのは8人。最初に伊部は2つのルールを作った。

「自分がG-SHOCKの開発をしていたとき、基礎実験を経ていない提案をしたために誰にも相談できなかった。追い込まれたから(解決策を)発想できたという考えもあるんですが、あれは本当にきつい。他人には強要できない。

だから、みんなの心配事、愚痴は自分が受け付ける。そしてどうしたらいいというのは私は一切言わない。みんなの総意で決める。たとえ、このプロジェクトができないということになっても、みんなの総意ならば受け入れる。私は諦めると宣言したんです」

伊部はこのプロジェクトを最初からフルメタルのG-SHOCKの開発だとは定義しなかった。

「フルメタルにすると(時計の心臓部を上部から保護する)カバーがなくなる。とんでもなく難しいことは分かっていた。私自身、G-SHOCKを開発したとき、カバーがなくなるなんてあり得ないと思っていましたから。難しいんだけれど、みんなで力を合わせればできるかもしない」

初代G-SHOCK開発時、伊部は自分を追い込み、技術的問題を突破した。今度は組織で臨むことを考えたのだ。プロジェクトの冒頭で伊部は、自分の欲しい時計をみんなで作ってみないか、と話しかけた。

「みんな時計が好きだから、そう言われるとやりたくなる。それで3カ月間ぐらいディスカッションしたんです。議論を重ねるたびに、(フルメタルG-SHOCKに向かうように)軌道修正するわけです。

そして機が熟した頃、こう言ったんです。『あれ、みんなが欲しいのは耐衝撃性のあるフルメタルの時計じゃないの』って。そうしたら、みんながそうだ、そうだと。最初からメタルのG(ショック)を作ろうと言えば、誰もが拒絶する。『できないことは伊部さんが一番分かっているじゃないですか』という話になったでしょう」

しかし――。

「やるってスタートしたんですけれど、実際、とてつもなく難しい。何度も壁にぶつかる。そして私は何でも聞くと宣言したので、みんな私に『できないよ』と言ってくる。そのとき大切にしたのは(メンバーの)モチベーションを保つこと。お前は天才だ、お前ができなかったら、できる人間はいないとか言い続けてました」

プロジェクトのメンバーから、「伊部さん、その(褒め)言葉3回ぐらい聞きましたよ」とあきれられたこともあった。

「みんなの総意が『無理だ』ということならばやめるというのは変わりませんでした。最後の最後、解決不可能だと思われるような問題が出て、(プロジェクトの)解散ぎりぎりまで行ったことがありました。そのとき、ぼくはこう言ったんです。『メタルGが製品化されたら、取材が来るだろう。そうしたらみんなで出よう』と」

技術者の苦労はなかなか表に知られにくい。彼ら、彼女たちの労に報いたいと、伊部は日ごろから思っていた。

「その言葉がみんなのモチベーションを上げたかどうかは分かりません。とにかくそれで最後を突破することができた。2年間かかりましたね」

世界累計出荷1億個達成後も恩を一筋に

96年11月発売の『MRG-100-1』、いわゆるメタルGは大きな話題となった。ただ、技術者への取材依頼がなかなか来なかった。

「すごく売れたんです。売れたはいいんですけれど、私の心配事は取材が来るかどうかということ。来なかったら私は嘘つきになっちゃうじゃないですか」

そんなとき、男性ファッション誌の取材依頼があった。伊部は取材の席で、プロジェクトに関わったメンバー全員の写真を掲載してもらえませんかと頼んだ。伊部の表情がよほど深刻だったのだろう、取材に来た女性はぽかんとした顔になった。

「本当に全員の写真を載せてくださったんです。若いメンバーが、この雑誌は家宝にしますって言ってくれた。それで自分はようやく肩の荷が下りた気がしました。取材に来たのはこの一誌のみでした」

あれがなかったら、お前の言葉は絶対に信じないっていうふうになったでしょうねと面白そうに笑った。

伊部が生み出したG-SHOCKは17年8月末、世界累計出荷1億個を達成し、名実ともにカシオ計算機の「顔」となった。その後もスマホ連携の新機能を搭載するなど進化を続けるG-SHOCKは、独自の世界観を伝えるマーケティング活動を世界中で展開している。現在、伊部は「G-SHOCKのプレゼンター」という肩書で世界中を回り、ファンに製品のもつ魅力を全身で感じてもらえるよう取り組んでいる。これまで世界25カ国で「ショック・ザ・ワールド・ツアー」を開催、各国の言葉でG-SHOCKの開発物語を語ってきた。

最後、伊部にこんな質問をしてみた。

「初代G-SHOCKを開発、そしてメタルGのプロジェクトも成功させました。他社からヘッドハンティング、あるいはカシオから離れて自分で会社を興すという考えはなかったのですか」

伊部は、ぼくの質問が終わる前に、「ないです、ないです」と大きく手を振って、笑った。

「もともと、私はカシオにラッキーな形で入ったじゃないですか。一歩間違えば、どこにも就職が決まらず、フリーターになっていたかもしれない。会社訪問に行くと、『今年は国立(大学卒)しか採りません』とか、『もう決まっていますよ、あなた、何しに来たんですか』、というのが(人事担当者の顔から)露骨に出ていた。ところがカシオに行ってみると、『会社説明会は終わっていますけれど、せっかく来たんだから、名前と学校名を書いてください』て。それで後から試験を受けませんかって電話がかかってきた」と、伊部は採用時の話を繰り返した。

「当時の自分の中ではありがたいの一言しかなかったんですよ」と、柔らかい口調で言った。

(敬称略・了)

[日経クロストレンド 2020年9月9日の記事を再構成]

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