2020/11/1
2020年6月に発売された「日産キックス」。海外では純内燃機関車もラインナップされているが、日本国内ではハイブリッド専用車として扱われる

色眼鏡では見るべからず

前記のとおり、キックスは完全な新型車ではないが、日産では屈指のグローバルヒット商品である。ブラジルを皮切りに、南米、メキシコ、中東、中国の順で発売されていったキックスに“新興国向け”という先入観をもつ人もいるかもしれないが、その後は成熟市場の北米にも導入されている。しかも、メキシコ、チリ、UAE、台湾ではセグメント1位の売り上げを誇り、中国やブラジルでもセグメント上位の売れ行きである。すなわち、今や「日産のコンパクトSUVといえばキックス」が世界の常識であり、いわば日本と欧州だけが例外だった。

また、すでにご承知のように、日本では既存のキックスがそのまま売られるわけではない。「ノート」と「セレナ」に続く1.2リッターシリーズハイブリッドの「e-POWER」のキックスは今回初登場であり、それに合わせて車体骨格にはかなり手が加えられて、サスペンションも全面的にリチューンとなり、内外装デザインも今回に合わせて手直しされている。フルモデルチェンジではないが、世にいう“ビッグマイナーチェンジ”級の大改良である。

そんなキックスe-POWERはタイ工場で生産されて、全数の7割を日本、残り3割をタイで販売する計画だ。この“タイ生産”というところに引っかかるマニア筋もおられようが、古くは「スバル・トラヴィック」や3代目「フォード・フォーカス」、あるいは同じ日産の「マーチ」や「三菱ミラージュ」の例を出すまでもなく、タイは世界でも有数の自動車生産国である。また、現在のタイは電動車生産の優遇政策を実施しており、日産のみならずトヨタやホンダ、三菱も新たに電気自動車やプラグインを含むハイブリッド車の生産を申請中。今後のタイは日本ブランド電動車の一大生産拠点になる可能性が高く、今回のキックスe-POWERはその先駆でもあるのだ。

1.2リッター直3エンジンで電力を発生しモーターを駆動するハイブリッドシステム「e-POWER」。「キックス」のものは「ノート」のそれに比べ、中間加速性能が強化されている

これまでのノウハウが生きている

キックスの乗り味は、特筆するほどの新しさや感動はなくとも、昨今のコンパクトSUVとしては快適性も操縦性も平均に達している。基本骨格が低価格車向けのVプラットホームということで不安に思う向きもあろうが、マーチや初期の「ノート」から想像するほどの安普請感はない。実際、Vプラットホームはすでに何度も改良・強化されており、キックスのそれも初期のノートあたりとはほぼ別物に近い設計になっているという。

少なくとも舗装路では乗り心地も悪くなく、低速での細かい凹凸もSUVならではの余裕あるサスストロークでソフトにいなす。直進性もまずまずで、日本の高速を法定速度で駆け抜けるときのフラット感も十分だ。

ただ、大きめの凹凸にガツンと蹴り上げられたときの低級音に、安っぽさを感じる瞬間もなくはない。このあたりは「ヤリス クロス」や「ヴェゼル」といった競合車にちょっとゆずる部分かもしれない。

今回は410kmの距離を試乗。燃費は満タン法で13.2km/リッター、車載の燃費計で14.2km/リッターを記録した

キックスのe-POWERも、ミニバンのセレナを過不足なく走らせているものと基本的に共通で、キックスなら絶対的な動力性能で不足はない。混じりけなしの電動駆動は心地よく滑らかで、不要にアクセルペダルを踏んだ瞬間にみせる、のけぞるほどの強力なピックアップもいかにも電動車らしい。エンジンやモーター、バッテリーといった各コンポーネントは新しくないのだが、これまで蓄積された実践的なノウハウによって、エンジンの始動頻度は従来のe-POWERより激減している。キックスのe-POWER化にあたっては静粛性への手当ては徹底している。前記の対策でエンジン音が物理的に減っているだけでなく、目に見えない車体構造のほか、目に見えるドアシールなども入念なことが確認できる。

7インチのカラーディスプレイと速度計を組み合わせたメーターパネル
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売りやすいに違いない……が
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