進化重ねた編集の工夫 「ざんねんないきもの事典」高橋書店 山下利奈一般書第1係主任(下)

高橋書店の山下利奈一般書第1係主任は1年1冊の刊行ペースを支えてきた
高橋書店の山下利奈一般書第1係主任は1年1冊の刊行ペースを支えてきた

一生懸命に生きているけれど、どこか「ざんねん」な進化を遂げた生き物を紹介した児童書「ざんねんないきもの事典」シリーズは2016年の第1弾から5年を迎えても売れ続けている。1年に1冊のペースで出る続刊が全体の売れ行きを刺激する。事典では異例の「年1冊」ペースを支えるしくみも進化を重ねている。

<<(上)「ざんねんないきもの事典」 生んだ編集者の生き物愛

第1弾が企画された当時はここまでのヒットは見込まれていなかった。初版の刷り部数は1万1000部。現在は第5弾までのシリーズ累計で420万部を超えている。380倍を超える大化けだ。「第1弾はあまり宣伝を打たなかった。大がかりなキャンペーンを組むようになったのは、最初のヒットを受けた第2弾から」と、編集を手がける、高橋書店の山下利奈一般書第1係主任は当時を振り返る。第2弾が出版されてから3カ月ほどで累計が100万部に達し、メディアで取り上げられる機会も増えて、「追い風が吹いた」という。

もともとは児童書として企画された。そのスタンスは今も変わっていない。しかし、読み手の年齢層は異例ともいえるほどに幅が広く、「読者カードでは下は4歳、上は95歳に及ぶ」という。実際に第1弾が書店に並ぶと、売り場での対応は出版サイドの予想とは異なっていた。「通常の児童書売り場に置くケース以外に、注目の新刊書や入り口近くの平置きコーナーに並べてくれる書店が相次いだ」(山下氏)。つまり、「子ども以外が読んでも面白い」と、書店側が判断したわけだ。

書店での動きを踏まえて、第2弾からは広告キャンペーンを用意した。主な露出先に選んだのは、電車の中づり広告。車両天井の横幅いっぱいの広告に、生き物の興味深い生態を紹介した。一般的に中吊り広告は視線の高さや接触の客層から考えて、子ども向けではない。「通勤で電車を使う親世代を狙った」(山下氏)。親が買って子どもに読ませるという購入パターンが多い児童書ならではの訴求アプローチだ。

1冊に盛り込まれたネタは100を超える(「おもしろい!進化のふしぎ 続々ざんねんないきもの事典」から)

まず親が目を通し、中身を確かめたうえで、子どもに渡すというのは、児童書では普通の手順だ。その点、「不快感を生まない」という編集ルールを定めているこのシリーズは、親が安心して子どもに読ませやすい本といえる。子ども同士の間でも「本で知った内容を友だちに自慢したり、クイズを出し合ったりするようなコミュニケーションにつながった」という。「小学生がえらぶ!“こどもの本”総選挙」(NPO法人こどもの本総選挙事務局主催)では2018、20年と2連続でトップに選ばれた。

ただ、編集サイドでは児童書の枠にとどまらない「オールエイジ(全年齢層)向け」の意図が最初からあったようだ。「誰が読んでも気づきがある内容を意識している」と、山下氏は言う。実際、読者カードの中には「子どものために買ったのに、親のほうがはまった」「孫にプレゼントする前に、自分が読んでしまった」といったエピソードが珍しくないという。家族や友達同士で本を「シェア」する傾向を踏まえて、会話の糸口になるような、コミュニケーションにつながる効果もネタ選びでは考慮に加えているそうだ。

次のページ
新たな生き物ジャンル追加でネタを確保
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら