坂井さんがいた東京大学大学院理学系研究科の山本智研究室は、ボスである山本教授は男性であるものの、そこに坂井さんがやってきて、助教に就任してものびのびと研究することで「女性がやっていきやすそうな場所」と印象付けられたのかもしれない。

「この場合は、私というよりも、やはり、山本先生が鍵だったと思います。私が研究しやすい環境を整えてくださり、最大限の指導とサポートをしてくださっていました。私、助教のときに出産しているんですが、報告しにいった私に山本先生は『雑務はしなくていいから、あなたにしかできないサイエンスに専念してください』と言ってくださったんです。そして、妊娠中から授乳が終わるまでの1年半から2年のあいだ、実際にいろいろな面で支えてくださったので、そういうのを見ていると、この研究室なら女性も活躍しやすい、と感じる人が続いたのではと思います」

結局、上司の振る舞いがとても大事だという、とても当たり前の話ではある。

とにかくそのような研究室において、坂井さんが助教だった時代には、研究員の外国人、大屋さん、他にもう一人の大学院生(現在天文台の研究員)で、教員・大学院生をあわせて8人中、4人が女性だった時期があるそうだ。

「山本研究室は物理学科でして、物理学科の女性って全体の2%くらいだと言われます。そんな中で、8人中4人、女性が揃う環境ってどれだけレアかということですよね。さらに、私の今の研究室も、女性の博士研究員が1人いて、今度採用するスタッフも3人女性なので、やはり研究室の半分が女性という環境になりそうです」

このあたりは、坂井さんという女性が活躍している環境に、女性が飛び込んできやすいということが大いにあった(ある)のかもしれない。

とはいえ、やはり、構成員の半分が女性というのは、例外中の例外だし、そもそも、物理学科全体でみれば、女性が全体の2%しかいないわけだ。いくらなんでもこれは低すぎる。数学や物理が好きでまた得意な人たちは男女を問わないし、その男女の比率は決して「100人中2人」ではないことはぼくは体験的に知っているのだけれど、にもかかわらず、なぜこういう頻度になるのだろうか。

科学研究の能力に性別が関係ないことは、様々な報告や研究で明らかになっているはずだけれど、特に数物系での少なさは「何かがおかしい」と思う(写真は川端裕人さん)

「物理学科の女性が2パーセントとか、やっぱりありえないですよね。コップの中の冷たい水が何もしていないのに急に沸騰しないのと一緒で、外的要因を加えなきゃありえません。もちろん、統計的にはいきなり水が沸騰する確率はゼロじゃないんですけどね」

坂井さんは物理学科出身らしいたとえで、現状の「ありえなさ」を表現した。

では、その時に働いている外的な要因とは、どんなことだろう。自然にしていれば、もっと男女比が半々に近くなるかもしれないのに、極端な偏りを起こしている力のことだ。

「親の刷り込み、社会の刷り込み、というのはあると思います。やっぱり小中高ぐらいのときから、『女子は文系』みたいな圧力がありますよね。『女の子はピンク色よ』っていうのと同じですよね。『女の子だから、まあ、短大に行けばいいんじゃない』っていう表現の仕方とかもまだ聞きます。でも、実際に、小さい女の子で、パズルが好きとか、乗り物が好きとか、普通にいますし、でも、他の女の子と人形遊びを一緒にしてらっしゃいとかって言われて、どんどん強要されると、そうしなきゃならないんだと思っちゃいますよね。算数や数学も、それと同じかもしれませんね」

坂井さん自身は、前に紹介した子ども時代のエピソードからも分かるように、「女の子なのだから女の子らしく」というふうなことはあまり言われずに育ってきた。世間の類型よりも、内からあふれるものに忠実でいられた。

「うちの両親も、女の子だからこうあるべきとか言う人たちではなかったので、それは大きかったと思っています。小学校もすごく公平な環境でしたし、中高は女子校でしたけど、そこも理系の子が多かったんです。とはいっても、その大半は医学・薬学系に行きなさいって言われてたんですね。これは、完全に親ですよね。結婚した後に子どもを産んでも復帰できるためには資格が欲しいと。だから、どうせ理系に行くんだったら医師や薬剤師だろう、と。でも、その中で私はそういうことは特に言われなかったので、好き勝手にやっていました」

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