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理系の女性研究者、なぜ日本は少ない 天文学者の実感

理化学研究所 主任研究員 坂井南美(最終回)

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版
文筆家・川端裕人氏がナショナル ジオグラフィック日本版サイトで連載中の人気コラム「『研究室』に行ってみた。」。今回転載するのは理化学研究所の坂井南美さんに星や惑星のはじまりについて聞くシリーズです。壁と思ってぶつかったら幸運だった、そんな楽しいエピソードから、日本に理系の女性研究者が少ない要因の分析まで、地上の話題も豊富。U22世代への熱い思いも放射されます。

◇  ◇  ◇

前回、理化学研究所「坂井星・惑星形成研究室」の坂井南美さんの研究史を見ていたところ、ちょっと興味深いことに気づいた。坂井さんは、これまで女性がとても少ないことで知られている物理学科出身だ。学部もそうだし、大学院生・助教時代を過ごした研究室もそうだ。

また、坂井さんと同じジャンルの研究を検索していくと、ごく自然に同じ研究室(東大大学院・物理学専攻の山本智研究室)の2人の女性研究者の名前がヒットして、それぞれ、特筆すべき活躍をしていることも前回見た。

科学研究それ自体には性別は関係ないはずだけれど、理学系、工学系の研究者には、女性はとても少ない。さらにいえば、数物系、と呼ばれる、科学としてもコアな部分は、特に少ない。でも、今、物理学の世界は変わりつつあるのだろう。

と同時に、どうしたら、このような状態になりうるのか関心があり、坂井さんに聞いてみた。今の、理学系、工学系の研究の現場は、いくらなんでも女性が少なすぎて、「何かがおかしい」と思うことしきりだからだ。実は、本シリーズで登場していただく研究者も、男女比が大いに偏っていて、ぼくは居心地がよくない。

「いや、日本の理学系の研究者って、本当に今も女性が少ないですよ」と坂井さんはかなり実感を込めて語った。

「この分野で私がオランダの研究所にセミナーをしに行ったとき、参加者が9割女性で、目が点になりました。みんな研究者ですよ。30代ぐらいの方が多かったと思います。もちろん、天文学って、物理学に比べると女性が多い傾向はありますし、私の研究は化学に寄っていて、化学も少し女性が多いです。でも、日本の場合、せいぜい1%が5%になる程度です。そのセミナーでの9割というのはたまたまだったかもしれないけれど、ヨーロッパでは若い世代は半々くらいにはなっていて、ドイツだけが、日本と同じかなあという印象ですね」

はたしてこの違いは何なのか。研究者の男女の割合が半々くらいにはなっているヨーロッパの国々の事例と、1割にも満たない日本やドイツの事例が理解を助けてくれるかもしれない。

「ひとつ思ったのは、オランダのその研究所はボスが女性なんです。やっぱり、今の時点では、女性は女性がいる研究室を何となく選ぶ傾向にあると思うんですよね。女性がやっていきやすそうな場所だと確信を持てますから。それを考えると、日本もドイツも、ボスはほとんど男性ですよね。だから、結果として、女性がいるところに女性が集まってくるみたいなことが起きているのかなと思います」

坂井さんがいた東京大学大学院理学系研究科の山本智研究室は、ボスである山本教授は男性であるものの、そこに坂井さんがやってきて、助教に就任してものびのびと研究することで「女性がやっていきやすそうな場所」と印象付けられたのかもしれない。

「この場合は、私というよりも、やはり、山本先生が鍵だったと思います。私が研究しやすい環境を整えてくださり、最大限の指導とサポートをしてくださっていました。私、助教のときに出産しているんですが、報告しにいった私に山本先生は『雑務はしなくていいから、あなたにしかできないサイエンスに専念してください』と言ってくださったんです。そして、妊娠中から授乳が終わるまでの1年半から2年のあいだ、実際にいろいろな面で支えてくださったので、そういうのを見ていると、この研究室なら女性も活躍しやすい、と感じる人が続いたのではと思います」

結局、上司の振る舞いがとても大事だという、とても当たり前の話ではある。

とにかくそのような研究室において、坂井さんが助教だった時代には、研究員の外国人、大屋さん、他にもう一人の大学院生(現在天文台の研究員)で、教員・大学院生をあわせて8人中、4人が女性だった時期があるそうだ。

「山本研究室は物理学科でして、物理学科の女性って全体の2%くらいだと言われます。そんな中で、8人中4人、女性が揃う環境ってどれだけレアかということですよね。さらに、私の今の研究室も、女性の博士研究員が1人いて、今度採用するスタッフも3人女性なので、やはり研究室の半分が女性という環境になりそうです」

このあたりは、坂井さんという女性が活躍している環境に、女性が飛び込んできやすいということが大いにあった(ある)のかもしれない。

とはいえ、やはり、構成員の半分が女性というのは、例外中の例外だし、そもそも、物理学科全体でみれば、女性が全体の2%しかいないわけだ。いくらなんでもこれは低すぎる。数学や物理が好きでまた得意な人たちは男女を問わないし、その男女の比率は決して「100人中2人」ではないことはぼくは体験的に知っているのだけれど、にもかかわらず、なぜこういう頻度になるのだろうか。

「物理学科の女性が2パーセントとか、やっぱりありえないですよね。コップの中の冷たい水が何もしていないのに急に沸騰しないのと一緒で、外的要因を加えなきゃありえません。もちろん、統計的にはいきなり水が沸騰する確率はゼロじゃないんですけどね」

坂井さんは物理学科出身らしいたとえで、現状の「ありえなさ」を表現した。

では、その時に働いている外的な要因とは、どんなことだろう。自然にしていれば、もっと男女比が半々に近くなるかもしれないのに、極端な偏りを起こしている力のことだ。

「親の刷り込み、社会の刷り込み、というのはあると思います。やっぱり小中高ぐらいのときから、『女子は文系』みたいな圧力がありますよね。『女の子はピンク色よ』っていうのと同じですよね。『女の子だから、まあ、短大に行けばいいんじゃない』っていう表現の仕方とかもまだ聞きます。でも、実際に、小さい女の子で、パズルが好きとか、乗り物が好きとか、普通にいますし、でも、他の女の子と人形遊びを一緒にしてらっしゃいとかって言われて、どんどん強要されると、そうしなきゃならないんだと思っちゃいますよね。算数や数学も、それと同じかもしれませんね」

坂井さん自身は、前に紹介した子ども時代のエピソードからも分かるように、「女の子なのだから女の子らしく」というふうなことはあまり言われずに育ってきた。世間の類型よりも、内からあふれるものに忠実でいられた。

「うちの両親も、女の子だからこうあるべきとか言う人たちではなかったので、それは大きかったと思っています。小学校もすごく公平な環境でしたし、中高は女子校でしたけど、そこも理系の子が多かったんです。とはいっても、その大半は医学・薬学系に行きなさいって言われてたんですね。これは、完全に親ですよね。結婚した後に子どもを産んでも復帰できるためには資格が欲しいと。だから、どうせ理系に行くんだったら医師や薬剤師だろう、と。でも、その中で私はそういうことは特に言われなかったので、好き勝手にやっていました」

ただし、技術者だった父親に、就職上のアドバイスをもらったことを坂井さんはよく覚えているという。

「理系の大学に進んだときに、父に一言言われたのが『日系企業には行くな』ということでした。日本の企業の研究開発職には、本当に女性が少なくて『現場は男性』みたいな意識が根強く残ってると。最近変わりかけているといっても、やっぱりトップがまだ年輩だから、苦労するぞと。どうせだったら外資系とか新興企業だとか、比較的に男女差別のないようなところに行きなさいというふうに言われました。結果的に、私は企業には行かなかったので、助言を役立てることもなかったんですけど。ただ、研究者ならちゃんとした論文を書けば認められるので研究者になろう、という意識はたしかにありましたね」

そんな坂井さんが物理学科の研究室に入り、成果をあげ、ロールモデルを示したことが、「研究室の半分が女性」という環境の呼び水になったと言えるかもしれない。とはいえ、当面、女性が少ない環境は全体としては変わらない。そんな状態を変えていく方が望ましいのは明らかで(現状では、本来、そっちの方面へと進みたい女性をかなり阻んでしまっていると思う)、そのためには、政策や、社会の変化なども必要でありつつも、実際に研究者のキャリアを歩むのは個々人だ。

坂井さんからの助言はこんなふうだ。

「ひとつ言えるのは、周りが何と言おうが、やりたいものはやりなさいっていうことですね。これ、特に女性だけでなく、若手や学生さんによく言うんです。研究者になろうというような人たちは、みなさん、興味と最低限の基礎力は、だいたい揃えてきます。そこから先は、行動力ですよね。たとえば、だめですって言われたときに、黙って受け入れているんじゃなくて、自分から動いて、何か行動を起こすみたいなことです。研究の場での遠慮は何もいいことを生みません。その場では面倒くさいなと思われても、やっぱり聞きたいことは聞くべきだし、やりたいなら行動しなさいってことです。それが結果的にその分野を進めることにもなります」

考えてみれば、今の坂井さんの研究の積み重ねは、大もとをたどれば、富士山頂の電波望遠鏡が使えなくなった時に、黙って受け入れるわけではなく、別の方法を探したことに端を発している。結果的に、坂井さんは追いかけるべきテーマと出会い、天文学は進展した。

そのような成功体験があちこちで回りますよう。もちろん、女性だけでなく、男性も含めて。

=文 川端裕人、写真 内海裕之

(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2019年11月に公開された記事を転載)

坂井南美(さかい なみ)
1980年、高知県生まれ。理化学研究所 開拓研究本部 坂井星・惑星形成研究室 主任研究員。博士(理学)。2004年、早稲田大学理工学部物理学科を卒業。2008年、東京大学大学院理学系研究科博士課程を修了し、助教に就任。2015年、理化学研究所准主任研究員、2017年より現職。2009年に優れた博士論文を提出した研究者に贈られる井上研究奨励賞を、2013年に日本天文学会 研究奨励賞を受賞。2019年には文部科学省の科学技術・学術政策研究所による「ナイスステップな研究者」に選ばれた。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、肺炎を起こす謎の感染症に立ち向かうフィールド疫学者の活躍を描いた『エピデミック』(BOOK☆WALKER)、夏休みに少年たちが川を舞台に冒険を繰り広げる『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその"サイドB"としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』『風に乗って、跳べ 太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、「マイクロプラスチック汚染」「雲の科学」「サメの生態」などの研究室訪問を加筆修正した『科学の最前線を切りひらく!』(ちくまプリマー新書)
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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