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オープニングで歌った『When will I see you again(天使のささやき)』はスリー・ディグリーズの曲で、アッキーが「2人のコンサートに絶対いいと思うんだ」と強く推してくれた曲です。お互いのオリジナル曲を歌い合うコーナーは僕が提案しました。アッキーが作詞・作曲をしたデビュー曲『I WILL GET YOUR KISS』を僕が、僕の『幸せのピース』をアッキーが歌いました。それで分かったのは、2人ともできるかどうかよりも、面白いかどうかが大事だということ。僕はアッキーの曲を歌ったことがないし、得意な曲調でもないけど、「面白いかも」と思って提案したら、すぐに「いいね」。「できるかな」という不安などは問題じゃないという気持ちが伝わってきて、すてきだと思いました。

(写真提供/東宝演劇部)

とにかくやってみる、飛び込んでみる。そこが似ています。2人で歌った『You're Nothing Without Me』はミュージカル『シティ・オブ・エンジェルズ』からの曲で、すごく速い英語のかけあいの曲。アッキーは歌ったことがなかったけど、聴いたその場で「かっこいいね。これは覚えるから」。たぶん苦労して覚えたと思うのですが、「これはできないよ」とか「いいけど、時間が足りないよ」と言うことは全然ありません。

デュエットしていて気づいたことがあります。普通は相手を見ながら歌うのですが、アッキーとだと、あまり見る必要がなかったのです。こう歌いたいとか、こうするというのが聴いていて分かるし、アッキーも聴いてくれているから、見なくても歌える。そのあうんの呼吸って、一緒に歌うときにとても大事なことで、得がたい相手だとあらためて実感しました。最近自覚したのですが、僕はデュエットが大好きです。1人で歌うのが嫌いなわけじゃないけど、誰かと一緒に歌いたい気持ちが強いし、特にうまい人と歌うと学ぶことも多いので。その点、アッキーは本当にうまいので心地よく歌えます。アンコールでは、『夏の終わりのハーモニー』を2人で歌いました。

ミュージカルの曲だけでなく、洋楽邦楽を問わずポップスとかいろんな曲を歌いたいという思いも共通で、アッキーはそれがより強いみたいです。日本を元気にする音楽としてアッキーが選んだのは、中島みゆきさんの『ファイト!』。これも素晴らしかった。

コンサートの後半では、スペシャルゲストとして演出家の小池修一郎さんに登場いただきました。『モーツァルト!』で僕たちを抜てきしてくれた、ミュージカル界での父親ともいえる存在です。キャスティングの裏事情やエピソードなどを語ってくれました。「5年後、10年後にどうなりたいかを考えて、いろんなことをやりなさい」とおっしゃいましたが、それは当時から言われていたこと。小池先生はいつも、ためになったり、先につながったりすることを言ってくださいます。やっぱり“先生”だと思いました。『モーツァルト!』を卒業した今だからこそ、アッキーと僕が小池先生とざっくばらんに話すことができるのでしょうから、やはり18年の年月は大きいものです。小池先生の登場がまた派手な演出で、舞台下からせり上がってきたステージで現れたのですが、そこでかかったショパンの『革命』はアッキーがこだわって選んだ曲でした。

お互いのこだわりポイントに新たな発見

アッキーはアイデアが豊富で、僕らが劇場入りから楽屋を経てステージに登場するまでのドキュメント映像をオープニングで流したり、手持ちカメラで相手が歌う姿を撮ってスクリーンに映したり、いろんなこだわりを見せました。一方、僕はミュージカル『レ・ミゼラブル』から『カフェ・ソング』を歌う際に、『レ・ミゼ』に出たことがないので、スクリーンに映すマリウス役の架空扮装(ふんそう)写真を撮ったりして、お客さまの笑いを誘うほうに力が入りました。お互いにこだわるポイントが違うのも面白くて、新たな発見でした。

そんな、やりたいことだらけのコンサートが実現できたのは、スタッフや関係者の方々のおかげです。1日限定で、準備の時間も短いなか、すごく協力していただきました。僕たちが『モーツァルト!』初演に出たときから一緒にやっている方たちもたくさんいて、やりたいことをやらせてあげようという愛情を感じて、感謝の気持ちでいっぱいです。

2人のコンサートは、企画としてもいいものだと思いました。『ふたりのビッグショー』という音楽番組がNHKで以前ありましたが、ああいう感じで、アッキーとだからできるものだと思います。コロナ禍の今は、大きなミュージカルでツアーをするのは大人数のキャスト・スタッフやセットの移動が難しいですが、コンサートは僕たちが出かけていけばできるでしょう。機会があれば、いろんな所でやってみたいですね。

『井上芳雄 The Amazing 3』

井上芳雄と後輩ミュージカル俳優たちが、ミュージカル・舞台や劇場の新たな魅力を語り合うトークイベントが生配信されます。

10月5日(月)
【1部開演】 17時
出演 井上芳雄、海宝直人、相葉裕樹
【2部開演】 19時
出演 井上芳雄、田代万里生、平方元基

配信場所:Streaming+
配信時間:各40分間予定
視聴可能期間:2020年10月7日(水)23時59分まで
視聴券:2000円
視聴券購入サイト:e+(イープラス)
井上芳雄
1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第79回は2020年10月17日(土)の予定です。


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