コロナ対策、東西でなぜ違う 「空気」が生む自粛警察『パンデミックの文明論』

いまだ収束しない新型コロナウイルスに、世界各国が対応に追われている。この有事との向き合い方から、普段はなかなか見えてこないその国の本質が浮き彫りになる。いうなれば「はいているパンツの色が分かる」と突っ込んだ表現で談論を繰り広げているのが本書『パンデミックの文明論』だ。

ドイツのようにリーダーが民主主義を強調する国もあれば、世間の同調圧力が大きくなる日本のような国もある。イタリアでは、コロナはペストを連想させ、国民の危機意識が高まった。しかしだからこそ、PCR検査に人々が殺到し医療崩壊が起きてしまった――。

このように、東西のコロナ対策、そこから見えてくる文化や国民性の違いを、漫画家のヤマザキマリ氏と脳科学者の中野信子氏が次々とそ上にのせていく。くわえて古代、中世の感染症対策といった歴史的背景も考慮しながら、それぞれの国の強み弱みについて互いの見解を交わしている。

ヤマザキ氏はイタリア在住で、夫はイタリア人。古代ローマを舞台にした作品『テルマエ・ロマエ』『プリニウス』などで知られる。中野氏は脳科学から人間の行動を読み解く『サイコパス』『空気を読む脳』などの著書がある。プライベートで親交のある2人が、電話でしたおしゃべりが対談のきっかけになったようだ。

高齢者を慕うイタリア人

日本は海外から、規制の緩さにも関わらず感染者や志望者数が少なかったといわれている。これに対する2人の見方が興味深い。中野氏は、日本社会の「空気」や「世間体」の影響に言及。政府による規制が緩くても、日本人は世間の目を意識しマスクを着用、外出や営業を自粛する。共同体のルールを守らない者を個人的な正義感によって糾弾する「自粛警察」が生まれるのも、空気に縛られる日本の風土を象徴しているという。

いっぽうヤマザキ氏は、「高齢者への姿勢」という観点を持ち出している。イタリアでは高齢者は慕われ、若い世代と一つ屋根の下に暮らすことが当たり前。そのせいで若者から高齢者への感染が広がったが、日本は違う。高齢者施設があり、高齢者向けの雑誌やファッションが存在するように、階層が分けられている。日本の人口は「密」だが、世代間は混ざり合っていないことを指摘するのだ。

日本の思考様式や文化が、コロナ対策に一役買ったというのはそうかもしれない。だが、この一事をもって成功とみなしてはいけないと著者らが言う通り、あぶりだされた強みと弱みについて自覚しておくことは必要だろう。とくに世代間の交流が少ないという点は、ものの見方が硬直化することにつながっていきそうだ。

感染症がヨーロッパでは「敵」、東洋では「自然」と見なされることや、古代ローマと現代日本に共通する女性像など、2人の話題はさまざまに広がる。古今東西をまたぐダイナミックな視点に、好奇心がくすぐられる一冊だ。

今回の評者=安藤奈々
情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。早大卒。

パンデミックの文明論 (文春新書)

著者 : ヤマザキ マリ
出版 : 文藝春秋
価格 : 880 円(税込み)

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