日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/10/19

今回の発見を受け、チュビリン氏らは早速、シベリア北西部のヤマル半島にある氷のクレーターのサンプルを採取しに行った。灰色や黄色や緑色のツンドラにできたクレーターは、「場違いな感じがしました」とチュビリン氏は言う。「クレーターに近づくと、まずはその大きさに驚かされます」。クレーターの縁はほぼ垂直に切り立っていて、凍った土が徐々に解けて穴の中に落ちていく。「その音を聞いていると、クレーターが生きているような気がしてきます」

研究チームは現在、科学雑誌に論文を発表するため、採取したサンプルを「大急ぎで分析」しているところだという。彼らはこの研究により、爆発の背後にあるプロセスの理解を深めるだけでなく、将来爆発する可能性のある場所を予測したいと考えている。

ほかのクレーターを調べたことがあるロシア、ロモノーソフ記念モスクワ国立大学の地質化学者アンドレイ・ビシュコフ氏は、クレーターが発見された場所の近くでは地元の人々が爆発音を聞いたり炎を見たりしていることから、シベリアの人々が危険にさらされるのではないかと心配している。17年には、先住民ネネツのトナカイの放牧地の近くで爆発が起き、クレーターができたと報告されている。潜在的な脅威は、この地域の石油・天然ガス施設にも及んでいる。

図解:氷の爆発

シベリアではいったい何が起きているのだろうか? 既存のクレーターで氷の壁のサンプルなどを分析した結果、いくつかの手がかりが得られている。ビシュコフ氏らは18年に、この爆発は、ガス、氷、水、泥が混ざって一気に噴出する氷火山の一種によるものではないかと提案した。

クレーターができるのは永久凍土だ。永久凍土は夏の間も凍ったままの土で、北半球の約2300万平方キロメートルを覆っている。

クレーターは、永久凍土の下のタリクと呼ばれる融解層から始まるようだ。タリクが形成されやすい場所の1つは湖の下だ。湖の水は、その下の土を温め、断熱するからだ。しかし、湖はたえず変化する。周囲の永久凍土が凍ったり解けたりを繰り返す中で、湖の水量も増えたり減ったりする。湖が干上がることがあれば、融解層は氷に取り囲まれる。

「下からも、側面からも、上からも、あらゆる方向から凍ってくるのです」と、米アラスカ大学フェアバンクス校の生態学者ケイティー・ウォルター・アンソニー氏は言う。水が凍ると体積が増えるので、まだ凍結していない部分を圧迫する。こうしてガスと水の圧力が高まり、地表がドーム状に膨らんで、ピンゴと呼ばれる小さな丘になる。

ナタリ氏によると、すべてのクレーターが湖と関係があるわけではないという。タリクは、塩分濃度が高くて水が凍る温度が低い地下水域でも形成されることがある。ピンゴの中には、地下水の上昇によって膨らみ続けているものもある。

ピンゴは北極圏の各地で見られ、1万1000個以上確認されている。しかし、爆発してクレーターを形成するピンゴは珍しいようで、シベリアのヤマル半島とギダン半島でしか確認されていない。

そして、こうした爆発を起こすためには地中に大量のガスがなければならない。

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