北米の鳥 年25億羽以上がネコの犠牲、絶滅にも関与
死んだ動物の美しさを写真にとらえられるだろうか? 写真家ジャック・ワンダリー氏にとって、それは新しい挑戦だった。
ワンダリー氏の写真「Caught by Cats(ネコに捕らえられて)」は2020年、写真コンテスト「BigPicture Natural World Photography Competition」の人・自然部門で最優秀賞に輝いた。この写真はある残酷な現実を映し出している。それはつまり、この写真1000万枚分に相当する、何十億という動物たちがネコに命を奪われているという現実だ。
この写真を撮るきっかけとなったのは、米国カリフォルニア州にある非営利の野生動物病院「ワイルドケア」の仕事だった。ワイルドケアには19年、ネコに襲われて負傷した動物が321匹運び込まれたが、そのうち89匹しか生き延びることができなかった。ワンダリー氏の写真に収められているのは、命を救うことができなかった残りの232匹だ。
「これだけ多くの動物を目の前にし、彼らは皆、同じ原因で命を落としたのだと知り、今起きていることについて深く考えさせられました」と、ワンダリー氏は振り返る。
ワンダリー氏は死体の並べ方を熟考した。多くの動物が命を落としていることが一目でわかり、同時に、時間をかけて細部まで見てもらえるよう工夫した。写真撮影のアイデアを出したのはワイルドケアのアニマルケアディレクター、メラニー・ピアッツァ氏。ピアッツァ氏は20年以上にわたって野生動物のリハビリテーションに取り組み、負傷した野良ネコと野生動物の治療にあたってきた。
「Caught by Cats」プロジェクトは心を揺さぶられる体験だった。撮影前日、ピアッツァ氏がワイルドケアの冷凍庫から死体を取り出し、解凍するため自宅に持ち帰った。当日、ピアッツァ氏が傷口を包帯でふさぎ、体にブラシをかけ、ワンダリー氏が死体を並べ、写真を撮影した。
「不快な写真にならないこと、衝撃的な写真にならないことが目標でした。可能な限り動物たちへの敬意を示し、人々が動物たちの美しさに魅了されることを目指しました」
脊椎動物63種の絶滅に関与
米ジョージタウン大学が推進する「ジョージタウン環境イニシアチブ」のディレクター、ピーター・マラ氏によれば、ネコは脊椎動物63種の絶滅に関与していて、そのほとんどは鳥類だという。「これらの絶滅を引き起こしたという事実だけでも大変なことですが、そのうえ、絶滅の危機にあるかどうかにかかわらず、全世界のさまざまな個体群に、ネコは重大な影響を及ぼしています」
マラ氏は研究機関「スミソニアン渡り鳥センター」の所長だった経歴を持ち、著書『ネコ・かわいい殺し屋―生態系への影響を科学する(原題:Cat Wars: The Devastating Consequences of a Cuddly Killer)』(築地書館)では、ネコが種の多様性を脅かす存在である理由を詳述している。この本が16年に米国で出版されてから、飼いネコの外出に関する規制はあまり変化していないが、問題の認識や理解は広まっているとマラ氏は述べている。
そもそもネコは好きなように歩き回り、獲物を殺す捕食者だと認めるべきという意見もある。しかし、ピアッツァ氏に言わせれば、この議論は公平ではない。いくつかの重要な要素を見落としているというのだ。
野生下での捕食・被食関係では、捕食者は獲物が足りなくなるまで狩りを続けるとピアッツァ氏は説明する。獲物が不足すると、捕食者の個体数が減少し、その結果、被食者の個体数が増加に転じる。イエネコはこのサイクルを狂わせる存在だ。
「彼らは15~20年にわたって同じ場所で暮らします。人が餌を与えるため、生き延びるために狩りをする必要はありません」とピアッツァ氏は話す。「彼らは一方的に獲物の命を奪い、彼らの個体数の変化はありません。そのため、野生下の捕食・被食関係と異なり、餌食となっている野生動物が個体数を回復するチャンスは訪れないのです」
ネコを外に出すかどうかは意見の分かれる問題だ。ピアッツァ氏はCaught by Catsプロジェクトについて、動物愛好家を疎外することが目的ではないと強調している。むしろ目的は、意見の異なる者同士を結び付けることだ。ピアッツァ氏はネコをひもにつなぐことや、「キャティオ(家に隣接する形で屋外に設置したネコ用のスペース、ネコ用パティオ)」を使うこと、今後ネコを飼う際は室内で飼うことなどを提案している。そうすれば、ほかの動物を守ることができるだけでなく、飼いネコの安全と健康を守ることもできる。
(文 CORDILIA JAMES、写真 JAK WONDERLY、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年9月24日付]
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