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ドトール随一のコーヒー通 人を呼ぶこだわりの高級店

「プレミアム珈琲」(700グラム)はエチオピアの村で探したイルガチェフの最高級の豆を200グラム強使用。専用の抽出施設も作った

「鳥羽さんは寝ても覚めても『ウチのコーヒーはまずい』と怒る。僕も負けず嫌いなので、必死に勉強しながら、4年かけて焙煎機を改造しました。一方で、焙煎だけじゃなく、やっぱり原料の豆も良くしたいと考えた。まだスペシャルティとか日本に普及していない時です。95年に初めて中南米の産地に行って、おいしい豆に出会った。それで商社と交渉して、ウチが指定した豆を輸入するようにしたんです」

実は営業マン時代から、菅野さんはロードサイド店の成長力に目をつけていた。だが、ドトールはカリスマ経営者の眼力と突破力をもって、都市型のDCSで急成長した実績がある。巨大な成功体験ゆえに、改めてロードサイド店を本格展開する発想は当時のドトールにはなかった。

ロードサイド展開を想定した「ドトール珈琲農園」は、コーヒー農園主の邸宅をイメージした内装。主力のコーヒーは3種類のブレンド(東京・世田谷の多摩堤通り店)

菅野さんに新たな道を開いたのが2007年のドトールと日本レストランシステムの経営統合だ。ある日、日レスの大林豁史会長に呼ばれ、ロードサイド型喫茶店の計画を示された。11年に1号店を開く「星乃珈琲店」の原案だ。フード主体だった当初案を、菅野さんはハンドドリップのコーヒーを核とするコンセプトに転換。こうして統合2社の初の融合業態が具体化した。

その1年後。大林会長に随行したキューバの産地巡りの帰路、唐突に告げられた。「菅野君、次の業態やろうぜ」。今度は君が直接やってみろ、と。これが神乃珈琲誕生の発端だ。

菅野さんは調達、焙煎、抽出、店構えなどあらゆる要素に、自らの経験や技術を存分につぎ込んだ。もっとも、ロマンと趣味で高級業態を追究したわけではない。サードウエーブ系カフェやコンビニコーヒーが普及するなか、あえてゆっくりとコーヒーの時間を愉しむ価値を世に問うことで、差別化の手掛かり見いだし、成長への道筋をつけたいとの思惑がある。

「成熟したお客を相手に、僕たちプロは先回りして、立地に合わせた新しいコーヒーの『愉しみ』の表現、新しい業態を考え出さなきゃいけない。そこではHD傘下の2社が一緒になって力を発揮できる部分があると思う」

コロナは成長の方程式をもリセットする。「喫茶市場はコロナ前の状態には絶対戻らない」。DCSは毎月の減収率こそ縮小しつつあるが、都市型店舗の集客回復は楽観できない。HDは今後、コーヒー関連の店ぞろえの大胆な見直しを迫られる可能性がある。

先鞭(べん)はつけてある。17年に1号店を開業した「ドトール珈琲農園」は、ドトールコーヒーが開発したロードサイド業態だ。一方、豪華なラウンジやテラス席を備えたブックカフェ「梟書茶房」のような個性あふれる新業態も開いた。消費者の潜在ニーズに目を凝らしながら、新たな価値を創造する「プロダクトアウト」の姿勢で、試行錯誤を続けている。

「今後、何百店も展開できるチェーン店の開発は難しい。神乃珈琲も目黒店タイプなら10店程度は出せるけど、それ以上の多店舗化は目指すべきじゃない。でも、新しい業態はまだつくれます。高級業態だってもう1種類あっていい」

つい最近、自宅でブレンドしているさなかに、心が震える出来事があった。高校生の時、長野県の霧ケ峰高原のレストランで飲み、感激したアイスコーヒーの味が偶然、再現できたのだ。「ずっと覚えていた味だけど、40年間、出合えなかったんですよねえ」。コーヒーを巡る長い旅路は、まだまだ多くの発見に満ちている。

(名出晃)

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