「おはぎ、お月見だんごの予約承ります」
半紙に筆文字で書かれたメッセージにつられて和菓子店の中へ。さほど広くないが、年季の入った木枠の陳列棚が正面に置かれ、老舗らしい落ち着いた雰囲気を醸し出していた。中には愛らしい生菓子が並んでいる。
生菓子は俳句のようだと思う。小さくても四季がギュッと注入されているところが美しい。
昔ながらの三角巾を被った店員さんに声をかけた。
「おはぎ二つと、あとお月見だんごの予約をお願いします」
すると恐縮した声が返ってきた。
「すいません。おはぎの販売は昨日までで、おだんごの予約は明日からなんです」
ガックシ……。ちょうど狭間にハマったとは。
「またどうぞ」の声に送られ店を出たのだが、遠ざかれば遠ざかるほど恋しいお月見だんごなのだった。
子供の頃は、お月見はあまり気乗りしない行事だった。親から月でウサギさんがお餅をついていると何度言われても、そう思えなかった。みんながウサギに見えると指さしているあの形が、私にはタコの頭にしか見えなかったのだ。その場のテンションに乗り切れなくて、早くおだんごが食べたいと話を先に進めてごまかした。
やがて、1969年7月、アポロ11号の月面着陸成功によって、月にウサギは生存不可能なことが誰の目にも明らかとなった。アームストロング船長が人類にとっての偉大な一歩を踏んだその時、私はもうすぐ7歳。
それからは、誰かが月にはウサギがいて……のフレーズを言おうものなら、「アポロが行った時、月にはウサギなんていなかったもんねー」と切り返すのが友達の間で流行した。子供心にスカッとする出来事だった。