ネタ探しは論文・文献の丁寧な読み込みから

キャッチーなタイトルワードの「ざんねんな」は企画段階から第一候補として念頭にあったという。だが、書籍名を検討する会議では、すんなりとは通らなかった。「生き物を『残念』と呼ぶのは、バカにしているようにみえる」という反対意見が出て、「何度も議論を重ねた」(山下氏)。別の案としては「変」「不思議」「面白」なども候補に挙がったそうだ。しかし、「いきものへの愛情に裏打ちされた表現であり、否定や軽視の意味ではない。現代の子どもたちはニュアンスを理解してくれるはず」という主張で押し切った。結果的にはこのチョイスがベストセラーにつながった。

コンセプトは最初からはっきりしていたが、実際に掲載する事例をそろえるのは、容易ではなかった。これまでの5点にはそれぞれ100件程度の事例が収められている。だが、100件にまで絞り込む前段階で検討する候補は「800件程度にのぼる」(山下氏)。つまり、8割はボツになる計算だ。しかも、魅力的な素材をどんどん使ってきたので、「後になればなるほど、ネタ探しは難しくなっている。過去に載せた類似のテーマも、できるだけ避けているから、なおさら制約がきつい」と、山下氏は長期シリーズならではの苦労を語る。

編集チームのメンバーは総勢10人ほどで、そのうち約半分の5、6人が事例のリサーチにあたっている。もともと生き物が好きで企画に加わっているメンバーではあるものの、ネタ探しには骨が折れる。そもそも「残念」というテーマで発表される研究成果は基本的にはないので、個別の論文や研究資料を丁寧に読み込んでいくしか、ネタを探す方法がない。文献では特段、「ざんねんポイント」にフォーカスしていないから、読み手が目を光らせて、埋もれた要素を掘り起こす必要がある。根気と情熱が必要な仕事だ。

程よく突き放しながらも、生き物をいつくしむタッチが共感を呼ぶ

取捨選択にあたっては、いくつかのルールがある。最も重視しているのは「読んだ人を不快にさせない」という点だ。一生懸命に生きている姿を興味本位でからかうような取り上げ方は禁じている。さらに、「事典と銘打っているからには、事実関係の正確さは絶対に譲れない」(山下氏)。研究者が発表した論文の中にも、怪しげな内容や偏った見方は珍しくないという。最終的には監修者である、動物学者の今泉忠明氏のチェックを受けているが、編集会議の段階でも事実関係が疑わしい項目は惜しげもなく排除している。

逆に、積極的に採用しているのは、「子どもたちが共感を持ってくれそうな切り口」だ。「取り上げている『ざんねん』なポイントを入り口に、生き物への興味を広げてほしい」(山下氏)という。コミュニケーションのきっかけになることも、編集サイドは意識している。「送られてきた読者カードを読むと、『親子でクイズを出しあった』『孫にプレゼントして、一緒に読んだ』など、家族の語らいが広がったケースがいくつもあった」という。

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「ざんねんだけどいとおしい」は人間にも通じる