半沢、わたナギ、MIUで活躍 新しい女性管理職たち
9月に最終回を迎えたTBSのドラマ3本『半沢直樹』『私の家政夫ナギサさん』『MIU404』はいずれも高視聴率に加え、作品性に対する評価も高く、多くの視聴者を楽しませてくれました。
どのドラマも、ストーリー展開や役者さんたちの演技力の秀逸さが称賛されるなか、私が特に注目したのは、3つのドラマそれぞれに登場する女性管理職の描かれ方と演じている女優さんたちの特徴です。
『半沢直樹』「鉄の女」の西田尚美さん
まず、『半沢直樹』で多くの視聴者からの反響を呼んだのが西田尚美さんです。「鉄の女」の異名を持つ開発投資銀行企業金融部第四部の谷川幸代次長を演じました。
世のため人のため、社会全体のためにも、帝国航空に関しては安易な債権放棄はせずに経営立て直し策を立案すべきだという姿勢を貫きます。「タスクフォ-ス合同報告会」で、「開発投資銀行は、タスクフォ-スによる債権放棄の要請に対して見送りの決断をいたしました」と公言した場面では、多くの視聴者がその熱演に拍手を送りました。銀行員としての意地と、半沢に応えるように小さくガッツポーズする姿も、視聴者の心を震わせ、ネットでも、「最高にかっこよかった」「胸熱すぎ。神すぎて泣ける」「今日の優勝は西田尚美」などの投稿が相次ぎました。
これまで西田さんと言えば主婦役を中心としたやわらかい印象があり、ビジネスパーソンのイメージはあまりなかったように思います。ですが、このドラマを通して「穏やかに粛々と仕事にいそしみながらも、決める時は熱く決める!」そんな女性管理職の印象を確実に残したと言えるでしょう。
癒やされる支店長の富田靖子さん
また、『私の家政夫ナギサさん』で主人公メイの上司である横浜支店の支店長・古藤深雪役を演じていた富田靖子さんも「こんな癒やされる女性上司がほしい」などとネットで話題になった一人です。
古藤支店長は、母親のような気配り力でチーム全体を温かく見守りつつ、業務の遂行については冷静な判断力で対処する人物。部下たちから親しみやすさと信頼を得ている管理職でした。
富田さんはこれまで、コメディーからサスペンスまで多様なキャラクターを演じ分けてきましたが、ここ最近は主人公をやさしく包む母親役が板についています。そうしたなかで演じた女性管理職の役柄だったこともあり、ソフトな雰囲気のなかにも冷静な決断力を兼ね備えた人物像が、富田さん自身のイメージともマッチしていると感じた視聴者も多かったことでしょう。
男社会で前進する麻生久美子さん
そして、「こんなふうに輝く麻生久美子が見たかった」と、ネットで称賛の声が上がっていたのが『MIU404』で機動捜査隊(第1と第4)の隊長・桔梗ゆづるを演じた麻生久美子さんです。桔梗隊長は、社会全体にとって、これからの未来に向けて、何が正しくて何が必要なのかをしっかりと見極め、自身の責任を背負いながら前進し続けている女性管理職です。
男社会の構図が色濃く残る警察組織のなかで、この桔梗隊長の姿勢やリーダーとしての活躍を面白く思わない層には反感を持たれていますが、桔梗隊長自身は「何を怖がっているんだろうね。ただここで働いているだけなのに」と、至極まっとうな信念のもとに静かに闘い続けています。
そのセリフには、「自分には他人との競争なんて全く興味がない。きのうよりあすをよい日にする、よい社会にするために、きのうの自分をきょうの自分が追い抜き良い仕事をするために競争しているだけなんだ。ただ働いているだけなんだ」というメッセージが込められていたようにも思います。
スーパーウーマンから当たり前の存在に
女性管理職をテーマにしたものと言えば、毎年様々な機関が「理想の女性上司ランキング」を発表していますが、この3人、西田尚美さん、富田靖子さん、麻生久美子さんは、それらのランキングにあまり名前が挙がることがないタイプの女優さんたちです。
例えば、産業能率大学総合研究所が行った2020年度の「新入社員の理想の女性上司」ランキングで、ベスト10入りしている女優さんたちの顔ぶれを見ると、天海祐希さん、吉田羊さん、北川景子さん、米倉涼子さんなど、どの女優さんたちも「デキる女像」を印象づける代表作のドラマがあります。キリっとした表情で高い能力を発揮し、毅然と仕事にいそしむ姿がトレードマークとなっている女優さんたちです。
一方、先述した3人の女優さんたちに、そうした役柄の印象はあまりありません。それは、令和の時代に入った今、女性リーダーはスーパーウーマンのような特別な存在ではないことを意味している表れであるような気もします。
コロナウイルス禍の今は、突出する派手な言動や行動よりも、穏やかに粛々と冷静に勤務する姿勢が必要とされます。
また、新たな生活様式、行動様式、業務運営が求められるなかで、前例にとらわれない決断が重要であるのと同時に、社会環境が変化しやすいため、大胆すぎる決断によってハイリスクを背負うわけにもいきません。
既存の成功事例を生かしつつも、今の環境に即した新たな取り組みを付加していくためには、冷静な分析力と決断力、そしてバランス感覚が必要となります。
3人はいずれも、突出した能力の高さやトラウマ設定など派手なバックボーンはなく、粛々と前進し、地道な努力を続けた結果が、今の地位に結び付いているキャラクターばかりです。
そして、3人とも他人との競争には目もくれず、仲間と共にいかにして目標を達成させるか、いかにして自身の信念を全うするのか、自分自身との競争人生を歩み続けています。
『個』がより重視され始めた今は、この『他人との競争よりも自分と競争』する女性管理職の力が、より発揮されやすい時代を迎えたように感じます。
公私共に新たな様式が求められる時代に合わせ、今後は世相を映すドラマも働く女性たちの描き方や演じる女優さんたちの顔ぶれに変化が出てくることでしょう。
社会の流れと仕事のオフタイムを潤わせてくれるドラマの変化を確認しながら、女性の新たな働き方像に注目していきたいと思います。
経済キャスター。国士館大学政経学部兼任講師、早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。日本記者クラブ会員。多様性キャリア研究所副所長。テレビ、ラジオ、各種シンポジウムへの出演のほか、雑誌やWeb(ニュースサイト)にてコラムを連載。株式市況番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重TV・ストックボイス)キャスターとしても活動中。近著に「資産寿命を延ばす逆算力」(シャスタインターナショナル)がある。
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