毒舌のケンカ芸「鬼越トマホーク」 実はムチャしない
任侠(にんきょう)映画から飛び出したような、こわもてのルックスがトレードマークの鬼越トマホーク。つかみ合いのケンカをし、仲裁しに来た人にキツい一言を返す"ケンカ芸"で知名度を高め、最近はその容赦ない毒舌トークでバラエティーやラジオに出演する機会が増えている。
先日は『しゃべくり007』(日本テレビ系)に出演し、いつもの毒舌を褒める一言に差し替えた、ケンカ芸のアレンジでもスタジオを沸かせた。
2人の出会いは吉本総合芸能学院(NSC)。高校卒業後、アルバイト生活中に松本人志の『遺書』を読み、「この人に会いたいと思って」吉本興業の学校に応募した坂井良多と、演歌歌手の父を持ち、子供の頃から芸能界が近かった金ちゃんが意気投合し、2010年にコンビを結成した。
「いかつい奴2人で言い合いをしたら面白く見えるはず」という当初の坂井のもくろみ通り、おかずクラブや横澤夏子、ニューヨークら粒ぞろいの同期がいるなか、NSCを首席で卒業するなど、早い段階で芸風が確立したという。
ところが、思わぬ落とし穴が。「そこでテングになってしまったんです。人が嫌がることをわざと言ったりして、戦国武将みたいな感覚になってしまって」(坂井)、「どんどん仲が悪くなって、最終的に自分に十円ハゲができて一度解散しました」(金ちゃん)。その後、別々のコンビで再スタートを切ったが、「お互い、あいつじゃなきゃダメだったと気付いて1年後に組み直しました」(坂井)。
ケンカ芸が生まれたのは5年ほど前。「吉本の本社でケンカしていて、止めに来た先輩に暴言を吐いたのを千原ジュニアさんが面白がってくれたのがきっかけ」(坂井)。そのくだりをテレビ向けにして、徐々に浸透させていった。
昨年はこのケンカ芸を『FNS27時間テレビ』内でフジテレビの社長を相手に繰り広げようとしたところ、爆笑問題の太田光がふざけて阻止。チャンスをつぶされた形となった鬼越トマホークが、この因縁から爆笑問題のラジオにゲストとして呼ばれると、数多くのお笑い芸人を巻き込む形で毒舌をまき散らし、大きな笑いを生んだ。
"人を傷つけない笑い"がもてはやされるようになってきた昨今、その正反対の位置にいることについては「"反社芸人"みたいな呼ばれ方もするんですけど、私生活でムチャなことはしないし、政治、宗教、差別ネタもやらない」(金ちゃん)、「毒舌だけど、ゆるキャラみたいなもんだと思ってもらえれば」(坂井)と語る。
ネタ作りに話が及ぶと「11年やってきましたが、ネタは4本しかない」と金ちゃん。坂井は「昔はコンプレックスに思っていたけど、極楽とんぼさんもロンブーさんもネタで売れたわけじゃないと気付いて、開き直るようになりました」と説明した。それでも「コロナ禍みたいな動乱の時のほうが僕らはやりやすい。もし今年、アクリル板バージョンの『M-1』になったら有利になるかもしれない。刑務所の面会みたいな感じで」(坂井)と意欲も見せる。
目指している芸人像は「賞レースで頭角を現して優等生のような活躍をする若手芸人の真逆を行きたい」と坂井。金ちゃんも「芸能界で生き残るのは本当に難しいと思ってます。今のうちにユーチューブも含め、自分たちの道を見つけないと。笑わせたいという気持ちは強いけど、手段が従来の芸人の形である必要はない」と同調した。
すれすれで踏み外さない絶妙な毒舌を武器に、新たな芸人街道を突き進む2人の今後に注目だ。
(日経エンタテインメント!9月号の記事を再構成 文/遠藤敏文 写真/中村嘉昭)
[日経MJ2020年9月25日付]
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