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「原始星」誕生どこで 天体50個比べ星・惑星形成探る

理化学研究所 主任研究員 坂井南美(3)

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版
 文筆家・川端裕人氏がナショナル ジオグラフィック日本版サイトで連載中の人気コラム「『研究室』に行ってみた。」。今回転載するのは理化学研究所の坂井南美さんに星や惑星のはじまりについて聞くシリーズです。壁と思ってぶつかったら幸運だった、そんな楽しいエピソードから、日本に理系の女性研究者が少ない要因の分析まで、地上の話題も豊富。U22世代への熱い思いも放射されます。

◇  ◇  ◇

理化学研究所の「坂井星・惑星形成研究室」の坂井南美さんは、まさに研究室の名の通り、星や惑星がどのようにできるかを観測に基づいて研究する天文学者だ。これまでの研究で、赤ちゃん星である「原始星」の周りの有機分子には、様々なパターンがありうることを見出し、その研究の中から、原始星の周りの円盤の成り立ちについても新しい知見をもたらした。

では、今後、どんな方向に研究を進めていくのだろう。坂井さんの関心の中心は、我々がいるこの生命あふれる世界がどんなふうに出来てきたのか、化学物質のレベルでの起源を問うことだというから、きっとそこに焦点がぎゅっと絞られていくのだろうか。

「まず、原始星の化学組成の違いが何に由来するかを知りたいんです。これは、いろんな天体を観測しないと見えてこないんですよね。原始星が誕生する母体となる、星間分子雲、ガスやチリからなる大きな雲みたいなものがあって、その中のいろんなところで星が誕生していきます。それで、同じ分子雲の中にある原始星を全部観測してあげて、それぞれどんな化学組成をしているのか統計的な方法で調べてあげると、どういうことが影響するのかが見えてくるはずです。ペルセウス座の分子雲にある50天体ぐらいをすでにALMAで観測して、2018年11月末にデータが届きました。提案から3年半、待ってようやく手に入れました。研究室のスタッフ総出でデータ処理を済ませて、さあ、今から本格解析していきましょうというところです」

データが届いてから、半年以上もかけて解析の下準備をするというのが印象的だった。そのことを述べると、坂井さんは床に置かれた黒い筐体を指差した。

「これ50テラバイトのストレージなんですよ。50テラのストレージと、バックアップが2つ。プロジェクトごとに分けて保管しています。天文台の装置につないでやることもできるんですけど、やっぱり自分の手元にあったほうが圧倒的に速いので」

ALMAは複数のアンテナをひとつの望遠鏡に見立てる干渉計なので、ただでさえデータ量が多い。この観測でも1天体あたり数百ギガバイトに達するそうだ。それをパソコンの中で展開して強度や位相を較正していくとすぐにテラバイト規模になってしまう。そして、較正が済んだら、それぞれの天体、それぞれの分子ごとに切り分けて画像に変換する解析を行い(縦横の2次元の情報)、そこにドップラー効果で分かる速度の情報を加えた3次元の「キューブデータ」という形にして、やっと解析の準備が整った段階だそうだ。その成果がはっきりと分かるには、まだ時間がかかりそうだ。

もっとも、ALMAを使う提案書には、どんな予測を立てて、何を見ようとしているのかはすでに書かれているわけで、坂井さんの考えた見通しなら今でも教えてもらうことができる。きわめて簡単に述べると──

「まず私たちは、天体の誕生した場所を気にしているんです。つまり、分子雲の中の真ん中のほうでできたものか、分子雲の端っこでできたものかが大きな違いを生む可能性があると考えています。分子雲の端っこには外からの光が入りやすくて、紫外線などの影響があって、中の方は紫外線が入りません。その違いが効いてくるという予測です」

細かいことは省くけれど、端の方は炭素鎖分子のような不飽和な有機分子ものが多く、分子雲の真ん中の方でできた原始星はギ酸メチルのような飽和した有機分子が多い、という予想だ。それが正しいかどうかは、遠からず明らかになる。

ただこういう話を聞いていてふと疑問に思ったのは、化学組成の多様性を考える時に、有機分子が飽和しているか不飽和かという対立軸だけでいいのだろうか、という点だ。それは、坂井さんたちの観測で焦点が当てられてきたポイントではあるけれど、素朴に考えると、別の対立軸もあってしかるべきなのではないだろうか。

「当然そこにも興味があって、調べようとしています。観測の周波数設定は、1つの範囲だけなんですけど、その中にいろんな分子のスペクトル線が入るように選びました。生命の起源にかかわる話としては、酸素と炭素はまず考えなければならないところですが、他に窒素や硫黄も見たいですね」

以上が、原始星の化学組成の違いの起源をめぐる研究のおおまかな説明だ。

それでは、原始星の段階での違いが、その後どのような違いに発展していくのだろうか。原始星の「その後」というのは、ぼくたちの太陽系のようなものがどうやってできてきたのかという話にも直接つながる話だ。

「その先を見ようと思ったら、分解能をもっと高くするとか、あるいは、もうちょっと進化の進んだ天体を高感度で観測することが必要で、それぞれ進めています。今、遠心力バリアのところまで有機分子がみつかると説明しましたが、それがのちのち惑星が形成される時まで残っているのか、残っているとしたら、どういう組成でどれほど複雑なものまであるのか知りたいですね。そこまではたぶんALMAで観測できると思っています」

ただ、ここに来て、少しばかりハードルが高くなっている面がある。

「これまでは、観測したスペクトル線を、既存のデータベースと照合して、どんな分子があるのか見つけてきたんですが、ALMAの観測は、感度も分解能も高いので、それでは精度が足りなくなってきてしまったんです。そこで、研究の上で必要な物質のスペクトル線を自分たちの実験室で測定しはじめています。私が、電波天文学の観測をしながら理研にいるというのは、ここから先、分子科学の知識がないとどうにもならないからなんですよね」

これまで使ってきた市販の「定規」(スペクトル線のデータベース)の精度では間に合わなくなったので、自分が必要なところの定規をみずから作る、みたいなことだ。

「なぜそれをやらなければならないかというと、たとえばこういうものを見てください」

坂井さんは、ALMAで観測したデータを見せてくれた。ところどころにぴょこんと突き出したスペクトル線が見えている。

と同時に、それほど突き出しているわけではないけれど、小さなピークがもっとたくさん見える。

「これ、わたしたちはウィード、雑草と呼んでるんですけど、飽和有機物に富んだ天体ですと、やたらといろんなところにスペクトル線が出ます。特に、メチル基(CH3-)があると本当に雑草みたいです。ALMA以前の観測では、見えているスペクトル線の9割以上同定できていたんですが、ALMAの観測では、場合によっては、半分以上が、U-line("Unidentified line")、つまり、未同定線、まだ同定できていないスペクトル線ということもあります」

実はここで、同じ有機分子でも、不飽和の炭素鎖分子では、これほど「雑草だらけ」にはならないというのがおもしろい。飽和した有機物の方が、観測上もどこか賑やかなのだ。

「そんなわけで、どこまで複雑な分子があるのかなって探すときに、これは実はもう知っている分子のラインですよというのを取り除いていかなければならないんです。それで、ちょっと地道で泥臭い作業ではあるんですけど、本当に私たちの観測の目的に即した形で実験をして、どんな化学物質がどんなスペクトル線を出すのかきちんと調べています」

なお、既存のデータベースで精度が足りなくなるひとつの原因は、「同位体」の存在だそうだ。炭素にせよ水素にせよ、通常の原子よりも重たい同位体が存在しており、同じ化学物質でも構成する原子の同位体によっては、微妙に違うスペクトル線を出す。それが例の「雑草」の原因の一つでもある。坂井さんたちにとっては、その一つ一つを詳しく知ることが大事だけれど、他の分野の研究者にとってはそれほどでもない、という話だ。

「分子分光学の専門家にお願いしようにも、もう分かっている分子の単なる同位体なんて、重箱の隅をつつくようなもので、面倒くさいだけなんですよ。だから、最初は分子分光学の研究室の装置を使わせてもらって測定させてもらったりしていたんですけど、それでも足りなくて、じゃあ、自分たちでやってしまおうということになったんです」

今、この研究がようやく本格的に動き始めたところで、論文にするのもまさにこれからだそうだ。もし「新しい定規」が確立されれば、これまでにALMAで行った過去の観測データも含めて、再検討できるわけで、実は既存データの中に含まれているのに見いだされていないお宝(発見)が出てくることもあるかもしれない。

そして、それを直近のデータの50天体分の観測でうまく活用すればどうなるだろうか。原始星で起きていることがより鮮明になって、時に大きな「副産物」を生み出しつつも、坂井さんの究極の目標である生命の化学的な起源に近づいていけるはずだ。

報告を待とう!

=文 川端裕人、写真 内海裕之

(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2019年11月に公開された記事を転載)

坂井南美(さかい なみ)
1980年、高知県生まれ。理化学研究所 開拓研究本部 坂井星・惑星形成研究室 主任研究員。博士(理学)。2004年、早稲田大学理工学部物理学科を卒業。2008年、東京大学大学院理学系研究科博士課程を修了し、助教に就任。2015年、理化学研究所准主任研究員、2017年より現職。2009年に優れた博士論文を提出した研究者に贈られる井上研究奨励賞を、2013年に日本天文学会 研究奨励賞を受賞。2019年には文部科学省の科学技術・学術政策研究所による「ナイスステップな研究者」に選ばれた。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、肺炎を起こす謎の感染症に立ち向かうフィールド疫学者の活躍を描いた『エピデミック』(BOOK☆WALKER)、夏休みに少年たちが川を舞台に冒険を繰り広げる『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその"サイドB"としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』『風に乗って、跳べ 太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、「マイクロプラスチック汚染」「雲の科学」「サメの生態」などの研究室訪問を加筆修正した『科学の最前線を切りひらく!』(ちくまプリマー新書)
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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