コロナの治療費、足りるか不安 保険はどこまでカバー
コロナの先の家計シナリオ ファイナンシャルプランナー 浅田里花
新型コロナウイルスに感染した場合を想定し、治療費などをカバーする保険への加入を検討している人もいるでしょう。ファイナンシャルプランナーの浅田里花さんは「健康保険などの公的保障や、民間保険の支払い要件などを事前に確認したうえで、加入の是非を判断してほしい」とアドバイスします。
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9月の4連休中の観光地は久々のにぎわいを取り戻し、コロナ下で感染対策に留意しながら経済活動を進めていくことを多くの人が受け入れ始めたようです。しかし、感染への不安が消えたわけではありません。自身と家族の命や健康、お金などへの不安を解消するのに役立つのが「保険」ですが、加入する前に知っておくべきことがあります。
自宅や指定ホテルでの療養に給付金
さまざまな施設やお店が感染対策を心がけているとはいえ、人の動きが増えていけば感染リスクは高まると考えられます。もし、自分や家族がコロナに感染したら、生命保険ではどんな保障が受けられるのでしょうか。
入院保険や入院特約など、病気・ケガで入院した際に給付金が受け取れる保険に加入していれば、コロナで入院した場合にも保障の対象となります。本来は病院など医療機関での入院に限られる入院給付金ですが、コロナについては臨時の施設での療養(中軽症者が病院のベッドに空きがないなどの事情で自宅や指定のホテルで療養するケース)も、医師の診断書などの証明があれば、病院に入院したときと同等の入院給付金が支払われます。
また、コロナ以外の理由で入院していたところ、感染防止のためや病院のベッドが満床のため、まだ入院が必要な状態であるにもかかわらず、自宅療養を指示されるケースも出ています。このように退院が早められた場合も、本来必要だった入院期間については医師の証明があれば入院給付金が支払われます。
約款に明記された感染症は「災害」扱いも
終身保険や定期保険など死亡保障を担う保険に入り、災害での死亡を保障する特約を付けている場合には、万一、コロナで亡くなることがあれば、普通死亡保険金に加え、災害死亡保険金も支払われます。「災害」というと不慮の事故を思い浮かべますが、コレラやエボラ出血熱など約款に明記されている感染症も「災害」扱いになります。コロナもそこに加えられたため、災害死亡保険金も支払われるわけです。
療養のため仕事を休んだ場合の収入を保障する保険(就業不能保険など)を販売する生命保険会社も増えています。商品の内容は保険会社によって違いがあるので、免責期間や支払い要件などの確認は必要ですが、保障対象となる疾病を限定していないタイプの商品であれば、コロナに感染して入院や自宅療養をした場合も対象になります。
ただし、ステイホーム期間中のように勤務先の指示で自宅待機した場合はもちろん、濃厚接触者となって自宅待機している場合も「療養」ではないので保障対象となりません。
必要な保障を適切な額で備える
こうしてみると、残念にも実際にコロナに感染してしまった場合、保険金・給付金を受け取ることができ、保険が家計の助けになることが期待できます。しかし、感染はしていないが、コロナの影響で仕事を休まざるを得なかった場合まではカバーできません。
保険への加入を検討する際には「どうなれば保険金・給付金が受け取れるのか」という支払い要件をよく確認することが大切です。
保険は家計をリスクから守るのに役立つ商品ですが、加入しすぎると、その保険料負担が増えた分は本来、貯蓄できる金額を家計から失うことにつながり、資産形成にマイナス効果となってしまいます。それぞれの家庭に必要な保障を、適切な保障額で備えることが上手な家計運営といえます。
公的保障の不足分を保険で補う
さらに、保険への加入を手厚くすることを考える前に確認しておきたいのは、それぞれの家庭にすでに備わっている保障です。
まずは公的な保障です。死亡保障の場合、遺族年金(遺族基礎年金、遺族厚生年金)がそれにあたります。
医療保障の場合は健康保険です。特に1カ月の自己負担額の上限が決められている高額療養費制度については、加入している健康保険の制度の内容をよく確認しましょう。
収入の保障に関しても、業務外の事由による病気やケガの療養で仕事を休んだ場合には健康保険の傷病手当金が、業務が事由であれば労災保険の休業補償給付があります。勤め先の倒産などで失業した場合には、雇用保険の基本手当を受け取れる対象となります。
コロナ禍で創設された「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金・支援金」のような新しい制度が登場することもあるので、こうした情報には常にアンテナを張っておく必要があるでしょう。
公的保障は主に国の制度ですが、自治体でも独自の制度があったり、国の制度に上乗せして給付していたりするところがあります。自治体のホームページを確認し、どんな制度があり、要件はどうなっているかを確認しましょう。申請しないと給付が受けられない場合が多いからです。
勤務先によって付加給付など上乗せ
次に、勤め先の保障についても確認が必要です。相談を受けていると、どのような制度があるかを把握していない人が多いと感じます。高額療養費制度や傷病手当金の法定給付分に上乗せする付加給付があったり、差額ベッド代の補填など各種手当金が充実していたりするなど、勤め先の保障が恵まれていることに驚く人も少なくありません。
会社員・公務員か自営業者・フリーランスか、会社員でも大企業か中小企業かなどによって勤め先の保障の有無は違いますが、公的な保障は誰でも備わっています。
コロナ禍で不安感が増す状況ではありますが、不安を解消しようと保険への加入を検討する前に、すでに備わっている保障を確認し、不足する分だけ加入するようにしたいものです。リスクへの備えは手元にある資金もその役目を担いますから、保障の設計と資産形成の両建てで備えるようにしましょう。
ファイナンシャルプランナー。株式会社生活設計塾クルー取締役、東洋大学社会学部非常勤講師。大手証券会社、FP会社に勤務後、1993年に独立。現在はFPサービスを行う生活設計塾クルーのメンバーとして、コンサルティング業務のほか、執筆・講演活動を行う。著書に『災害時絶対に知っておくべき「お金」と「保険」の知識』(共著 ダイヤモンド社)など。
(おわり)
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