デジタル技術を駆使した創作や独創的なミュージアムの設計で知られるアート集団、チームラボ(東京・千代田)。同社の代表で東京大学工学部出身の猪子寿之(いのこ・としゆき)さんは、科学の学びで身につけた「ボーダーレス」な発想を作品に生かしている。サイエンスとアートとの結びつきや、それが生み出す可能性について聞いた。
――コロナ禍がきっかけの新作があります。どのような思いを込めたのですか。
「紙に描いた花をスマホ撮影してアップロードすると、それが(動画投稿サイトの)ユーチューブ上の花束にリアルタイムで追加される作品『フラワーズ ボミング ホーム』を8月に発表しました。みんなで花束を作ることができ、どこで描いた花でも世界中で見ることができる。テレビに映せば、家のテレビが世界とつながる。家に閉じこもらなければならないときでも、自分の存在と世界がつながっていることを実感できればいい、つながりが祝福されるような感覚を広められればいいと思いました」
言語化したら本来の世界から遠ざかる
――科学との出合いは。
「子供の頃は近くの土手で昆虫やバッタを捕まえ、家に帰って図鑑で確認するような遊びをしていて、それがサイエンスに興味を持つきっかけになったと思います。思春期のころには、科学は世界の真理を認識する方法ではないかと、なんとなく感じるようになりました」
「人は言語で物事を認識している。でも、言語化したらかえって世界から遠ざかると思います。例えば地球と宇宙は、本来は連続的で論理的には境界がない。それが『地球』と言ったら境界ができて、本来の世界のありようから遠ざかる。科学的な認識というのは、世界のごく一部かもしれないが世界そのもの、真理を捉えようとしている。だから信用できると感じられたのです」
――大学で統計を学んだのはなぜですか。
「大学では応用物理・計数工学科に進みました。科学的なアプローチや、統計的なアプローチを世界を認識する方法として身につけたいと思って選択しました」
「例えばニュースで新しい病気で人が亡くなっていると報じられたとします。でも統計的にみると死者数全体は減っているかもしれないし、新しい病気がなかった場合と同じかもしれない。統計的にみたら、社会を破壊するのは新しい病気ではなく、『新しい病気』という言語での認識、つまり誤った認識が広がること自体かもしれない。最近の状況をみながら、こんなことを考えることもあるのですが、こうしたことは、統計や確率について学ばなければ、わからないことです」