日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/10/12

危機の連鎖

ゲイツ氏は記者会見で、パンデミックに起因する悲劇の連鎖反応について説明した。健康危機が経済危機を生み、それが教育危機につながり……と危機が次々と誘発されることで、国や性別、人種によってすでに存在する不平等が増幅されるのだ。

報告書によれば、そうした危機のなかで最も有害なのは、世界的な景気後退だという。感染拡大を抑制できたかどうかにかかわらず、すべての国に影響を及ぼしている。国際通貨基金(IMF)の推計では、世界経済は毎月5000億ドル(約52兆円)近くの損失を出し続けており、21年末までに少なくとも12兆ドル(約1250兆円)が失われると予測している。

この景気後退は、発展途上国に桁外れの痛みをもたらしていると報告書は述べている。3月以降、景気刺激策として全世界で18兆ドル(1900兆円弱)が投じられたが、その大部分が富裕国に集中している。サハラ砂漠以南のアフリカ諸国などの低所得国は、財政破綻を免れるだけで精いっぱいだ。

景気後退の影響が及ぶ先は、有色人種のコミュニティーに偏っている。米国で最近実施されたある調査では、8月の家賃を支払うことができるかどうかわからないと回答した人が、黒人とラテンアメリカ系では46%に上ったのに対し、白人では23%だった(黒人が経営する会社や商店の半数以上は、COVID-19を乗り切れずに廃業する可能性があるという)。

女性もまた、パンデミックで特に大きな負担を強いられている。極度の貧困に追いやられた3700万人の内訳を見ると、低中所得国の女性が不均衡に大きな割合を占めていると国際労働機関(ILO)は報告している。

女性は子どもも含め、在宅での労働や露天商といった仕事に従事していることが男性に比べて多い。そうした仕事はパンデミックによる打撃が特に大きいうえ、育児や看病など、女性に任されることが多い無報酬の家事労働も増加している。

パンデミックは未来の世代にも影響を及ぼしそうだ。14年に西アフリカでエボラ熱が流行したときの調査からは、低所得国の少女は少年に比べ、授業再開後の学校に戻る割合が低くなることが示唆される。

また、医療崩壊が起こった結果、妊娠中や出産時の救命治療がますます難しくなっている。最新のデータによれば、全世界の妊産婦の死亡例の95%近くがリソース不足の環境で起きており、その大半は適切な医療と専門知識さえあれば回避可能だったはずだという。

従来の病気を防ぐためのワクチン接種にも影響が及んでいる。この数十年、麻疹(はしか)、ジフテリア、破傷風、百日咳などのワクチン接種率は着実に増加していたが、パンデミック以降、接種率が急激に下がり、1990年代以来の水準まで落ち込んでいる。

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