日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/10/10

2019年、グリーブス氏とソウサ・シルバ氏らは、ハワイの望遠鏡よりもさらに精度の高いチリの高地にあるアルマ望遠鏡を使って、ハワイでの観測結果を検証した。数十台のパラボラアンテナから成るアルマ望遠鏡はハワイの望遠鏡と同じく、電波をとらえて天体を観測する。もし金星の大気のなかにホスフィンが渦巻いていれば、それが放出・吸収するエネルギーを検出することができる。

すると、ここでもやはりホスフィンは検出された。今回は、シグナルの検出を金星の赤道付近の高度52~60キロの位置にまで絞り込んだ。この付近の気温と気圧は、地球の生命にとって厳しすぎる環境というわけではない。シグナルの強さを基に、チームは金星のホスフィンの濃度をおよそ20PPB(PPBは10億分の1)と計算した。地球上のホスフィンの少なくとも1000倍はある。

何ものかが補充し続けている

太陽系の中では、巨大ガス惑星である木星と土星の内部でもホスフィンは作られている。木星と土星の中心核付近で、激しい温度と圧力によって生成されたホスフィンは、大気を通って上昇する。しかし、岩石惑星ではそこまで環境が厳しくないため、生命なくしてホスフィンを作る方法は知られていない。だが、ホスフィンを検出した金星の観測が正しければ、何かが金星の大気にホスフィンを補充し続けているはずだ。

ドイツ、ベルリン工科大学の宇宙生物学者デューク・シュルツ・マクー氏は、金星のホスフィンは生命によって作り出されたものという説明には納得するが、その他未知の地質学的な理由か、あるいは光による化学反応という可能性も捨てきれないと指摘する。「金星については、まだわかっていないことが多すぎます」

研究チームは、生命が存在しなくても金星でホスフィンが作られる可能性について検討してみた。火山の噴出ガス、激しい落雷、地殻プレートの衝突、ビスマス(蒼鉛)の雨、宇宙塵(じん)など、様々なシナリオで計算した結果、そのいずれも観測されたほど大量のホスフィンを作り出すことはできなかった。

「生命であろうとなかろうと、実に珍しいメカニズムであることは確かです。何かおかしなことが起こっているようです」と、ソウサ・シルバ氏は言う。

一方、アルマ観測所の科学者ジョン・カーペンター氏は、ホスフィンの観測結果自体に慎重な姿勢を示している。望遠鏡がとらえたデータからごく微弱なシグナルを取り出すためには、膨大な処理作業が必要だった。その処理によって、ホスフィンと同じ周波数の人工的なシグナルが取り出されてしまった可能性がある。また、はるか遠方の分子を識別するには、複数の痕跡を探し出すのが標準的なやり方だというが、今回の研究に関してはそこまで行われていない。

ソウサ・シルバ氏もその点は認めている。実際、別の望遠鏡を使った追加観測も予定されていたが、今のところ新型コロナウイルスの影響で計画は中断されたままだ。

(文 NADIA DRAKE、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年9月16日付]