横行する10代少女の人身売買 インド・バングラの闇

日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/10/4

そのため、取引業者は少女たちを容易に州内に送り込むことができる。行き先は、人口1400万人を超える州都コルカタの売春街や、デリー、ムンバイ、プネーといった国内の都市、さらには中東にも及ぶ(インドでは商業的性行為は合法だが、売春のあっせんや売春宿の経営といった関連する多くの行為は法律で禁止されている。子どもに売春をさせることも違法だ)。

悲劇の最大の原因は、当然のことながらその地域にはびこる貧困だ。インド最大級の面積を誇る南24パルガナ県もその一つ。道路の整備が遅れ、めぼしい産業もなく、モンスーンの季節には洪水が起き、農作物が被害に遭うこの土地では、ギャングが貧しい家の弱みにつけ込んで、若い娘たちを食い物にする。

「私が人身売買業者なら…腹をすかせた子、仕事を探している子、恋愛に興味がある子を狙いますね」と話すのは、コルカタで人身売買の被害者を救済するNPO「サンラアプ」のタポティ・ボウミックだ。貧しい家に育った少女たちは、携帯電話や化粧品などをちらつかせるだけで、簡単にだまされるという。「彼女たちは、テレビドラマで見るような生活を、自分も送ってみたいと思っているんです」

ボウミックによると、人身売買に手を染めている10代の少年や青年が、目当ての少女と偽装結婚をしたり、同棲(どうせい)したりすることもあるという。「少女をものにするのに2万ルピー(約2万9000円)かかったとしても、売れば7万ルピー(約10万円)になりますからね」と、ボウミックは言う。もうけは7万円ほどで、その額は平均的な工場労働者の5カ月分の給料に相当する。

最近は西ベンガル州などで警察の特別取り締まりチームが活動を強化しており、売春宿に売られた少女の発見と救出に当たっているが、数が多過ぎて手が回らないという。「子どもが行方不明になるたびに、警察がすぐに捜査を開始したかどうかを確認しなければならないのです」と話すのは、数百人の救出実績があるNPO「シャクティ・バヒニ」の共同創設者であるリシ・カントだ。

サンラアプなどのNPOは、被害に遭った少女が家族の元に帰り、偏見を克服して自立できるように社会復帰のプログラムを実施している。カントは、州政府のさらなる被害者支援を訴える。「普通の生活を送れるよう、力をつける手助けをしなければなりません」

しかし、人身売買はあまりにも規模が大きい。専門の捜査機関を設置するなど、実効性の高い対応を継続的に行う努力が不可欠だ。

未成年者を搾取する売春宿の経営者や人身売買業者は、刑事罰を受けずに済むことが多い。警察の取り締まりが十分に機能していない上、インドの司法制度にはあまりにも抜け穴が多いのだ。この国の裁判所は未処理の事件を山のように抱えている。組織の機能不全や不正が手伝って、検察が期日通りに起訴できず、やむをえず被告人を保釈することもある。

(文 ユディジット・バタチャルジー、写真 スミタ・シャルマ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2020年10月号の記事を再構成]

[参考]ここで紹介した記事は、ナショナル ジオグラフィック日本版2020年10月号の特集「売られた少女たち」の一部です。特集では、売春宿から救出された2人の少女をリポートしています。このほか、最新解析技術と化石の発掘ラッシュから見えてきた、本当の恐竜の姿に迫る「アップデートされる恐竜」、世界最大級のワシを守る活動「アマゾンのオウギワシ」、米国の国立トレイルなどが収録されています。Twitter/Instagram @natgeomagjp

ナショナル ジオグラフィック日本版 2020年10月号[雑誌]

著者 : ナショナル ジオグラフィック
出版 : 日経ナショナルジオグラフィック社
価格 : 1,210 円(税込み)


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