性能アップでお買い得 入門機と思えぬ実力の新iPad
戸田覚の最新デジタル機器レビュー
この秋、アップルからiPadが新たに2モデル登場する。1台は中級モデルとして人気のある「iPad Air」で、額縁を細くした新しいデザインを採用した。もう1台が今回紹介する「iPad」で、「無印のiPad」とでも呼ぶとわかりやすい。モデル名はずっと「iPad」だが、一般に「世代」とともに称することが多い。今回の新モデルは「iPad 第8世代モデル」、1つ前のモデルは「iPad 第7世代モデル」となる。
価格はiPad 第7世代モデルと変わらず、3万4800円(税別)から。iPadの中では最廉価モデルで買いやすい。しかも、iPad 第8世代モデルは性能が一気にアップし、非常にレスポンスがよい。「超お買い得」となったiPad 第8世代モデルを詳しくレビューしていく。
エントリー向けのコンサバなモデルだ
iPad 第8世代モデルの外観は、多くの人が見たことのあるiPadの代表的なスタイルだ。本体下部(冒頭の写真では向かって左側に)ホームボタンを搭載する。このボタンが指紋センサーになっているのもおなじみだ。これまでiPadの多くはこのようなデザインだったが、最近は額縁を細くしてホームボタンを廃止したモデルが増えている。3月に登場した「iPad Pro」やこの秋登場の新しいiPad Airはどちらもホームボタンがなくなっている。
ほかにもiPad 第8世代モデルは"保守的"な部分が多い。充電端子はアップルが広く採用するLightningだ。こちらも他モデルではUSB-C端子への移行が進んでいるが、変わらなかった。イヤホン端子も搭載する。
これらの保守的な設計は、新しい周辺機器をあまり買いそろえたくないユーザーには適している。エントリーモデルに位置づけられるiPad 第8世代モデルには、最適なアプローチと言えるだろう。
性能が大きく向上した
iPad 第8世代モデルのCPU(中央演算処理装置)は「A12」だ。iPad 第7世代モデルが「A10」だったので、一気に2世代新しくなった。新iPad Airが搭載するCPUは最新の「A14」で、それよりも2世代遅れているが、実際の性能は文句のつけようがない。ちなみに、高価なiPad Proが搭載するCPUは「A12Z」。A12と全く同じではないが、世代的には同等と思ってよいだろう。
わかりやすく言うなら、iPad 第7世代モデルは入門向けだったので、性能もホドホドだった。しかしiPad 第8世代モデルは、入門向けに位置づけられながら十分なパフォーマンスがあり、ヘビーなゲームでも快適に使えるほど進化した。
ゲームなどの負荷のかかる用途に使わなくても、3年、4年と長く使った際に、性能の高さが利いてくる。年月を経ても処理が重くなりにくい。長く使えるという意味でも、お買い得度はiPad 第7世代モデルより格段にアップした。
充電器は高出力タイプに
iPad 第8世代モデルの本体は、iPad 第7世代モデルとほぼ同様だ。外観を見ても違いはほとんど見当たらない。
だが、付属品は大きく変わった。付属の充電器が20ワット(W)の高出力タイプとなり、ケーブルも「USB-C×Lightning」(Lightning端子を持つデバイスをUSB-Cポートに接続)に変更された。アップルは公式な充電時間を明らかにしていないが、この充電器とケーブルを利用すると、より急速に充電ができる可能性が高い。
本体横には引き続き「Smart Connector」が搭載されており、純正の専用キーボード「Smart Keyboard」は磁石でくっつけるだけで利用できる。充電の必要がないのは気楽だ。Smart Keyboardは折りたたむと画面カバーになるので、持ち歩きの際にも便利だ。
専用ペン「Apple Pencil」による手書きも可能。Apple Pencilは第1世代に対応しており、安価に入手できる。
iPad Airなどに比べて明確に劣っているのは、ディスプレーがダイレクトボンディング(タッチパネルのガラス面と液晶パネルの間の空気層をなくして圧着する手法)ではない点だ。ディスプレーのガラスと液晶の間に微細なスキマがある。これによって、斜めから見ると画面がやや白っぽく見えるし、Apple Pencilでの筆記の際にもペン先と線の間に微妙なギャップが生じる。とはいえ、そのスキマもずいぶん狭くなっているので、気にならない人も多いだろう。
iPad OS 14も魅力的に進化
iPad向けのOS(基本ソフト)である「iPad OS」も、この秋メジャーアップデートされ「iPad OS 14」となった。変更点はかなり多い。例えばホーム画面に「ウィジェット」と呼ぶ小さな情報画面を表示する機能を追加し、ホーム画面でさまざまな情報を一覧で見られるようになった。
従来は全画面表示されていた音声アシスタント機能「Siri」がコンパクトになり、画面のほかの要素をほとんど隠すことなく利用できるようになった。写真やファイルなどのアプリの設計も変わり、画面左のメニューが積極的に採用されている。プルダウンメニューも増え、よりパソコンに近い印象になった。
Apple Pencilの機能も大きく進化した。手書きの文字が自動でテキスト認識されるようになっているのだが、日本語への対応は遅れている。現在は英語と中国語のみの認識だ。ただし、手書きの図を自動で図形データに変換する機能は標準で搭載されている。メモがより美しく書けるだろう。
ハードもOSも大きく進化したiPad 第8世代モデルだが、価格据え置きなのは驚くばかり。アップルがiPadに力を入れ、より普及させようと狙っているのがよくわかる。
1963年生まれのビジネス書作家。著書は150点以上に上る。パソコンなどのデジタル製品にも造詣が深く、多数の連載記事も持つ。ユーザー視点の辛口評価が好評。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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