やる気低下はマニュアルのせい? 創意工夫の喜び必要
(3)自律欲求
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「心の法則を読み解く心理学は、ビジネスのあらゆる局面にかかわってくる」。心理学者であり、MP人間科学研究所代表を務める榎本博明氏はこう話します。心理学の知見をビジネスの様々な局面で生かせるようにQ&A形式でまとめた最新刊『ビジネス心理学大全』(日本経済新聞出版)から、「chapter1 モチベーションの心理学」の章を紹介、「どうしたらやる気が高まるのか」を考えていきます。
ミスを犯さないように、極力マニュアルを整え、事細かく指示も与え、懇切丁寧に指導しているので、仕事しやすい環境を整えているはずなのですが、どうも職場のモチベーションが低いように思います。何が足りないのでしょうか?
効率化やミスの防止のために、あらゆる業界で仕事のマニュアル化が進んでいます。アルバイターや派遣社員など、その職場に不慣れな人材でもすぐに戦力となるようにするには、マニュアルは不可欠です。また、よく気がつく人とあまり気がつかない人、他人への配慮が得意な人と苦手な人、仕事の丁寧な人と雑な人というように、個人の特性の違いによる仕事のムラを最小限にするためにも、マニュアルは必要不可欠でしょう。とくに接客業などでは、クレーム防止のためにも、応対等のマニュアル化が進められています。
仕事の流れがマニュアル化され、細かく指示が与えられ、具体的なやり方についても懇切丁寧な指導があれば、迷うことなく仕事に取り組めるし、失敗への不安もなくなるので、従業員は安心して仕事に向かえるでしょう。
でも、それでは不安がなくなることによって最低限のモチベーションが保証されるだけであり、もっとモチベーションを高めるためには、さらなる条件整備が必要となります。そこで着目すべきは、自律欲求です。
効率性の追求が働く喜びを奪う
仕事の手順や具体的なやり方まで細かくマニュアル化し、その通りにやれば無難に仕事をこなせるとなれば、ひとまず不安は解消し、安心して仕事に取り組めるでしょう。
しかし、不安の解消だけではモチベーションは高まりません。ここで、よくある従業員の不満について考えてみましょう。
「ウチの上司の口癖は、『つべこべ言わずに、言われたことをやればいいんだ!』なんです。ちょっと質問しても、すぐにこんなふうに言われてしまう。モチベーション下がりまくりです」