総裁選で圧勝 菅首相のどんなイメージが後押し?

「ガースー」「菅ちゃん」の親しみやすさ

本人がイメージ戦略として打ち出したわけではないだろうが、総裁選への出馬を表明した直後からメディアに広まった「パンケーキ好き」は、ソフトイメージを増幅する効果があったはずだ。「令和おじさん」との相乗効果で、ほのぼのしたキャラクターイメージが広まった。さらに、「秋田県出身」「無派閥」「法政大学卒」「苦労人」「市議会議員からのたたき上げ」「2世議員ではない」などの情報が重なって、石破、岸田両候補との違いが際立った。

安倍政権では父親が大物政治家だったことに加え、岸信介、佐藤栄作の両元首相からの系譜もあって、庶民感覚とのずれが指摘されることもあったが、菅氏はその点で違いがあり、イメージ面で得をしたところもあるだろう。長く続いた首相の後だけに、違いを求める気分も強くなっている可能性が高い。安倍政権をなぞりながらも、少しだけ違うという、微妙な期待値に、菅氏のキャラクターはうまくはまっていたと映る。

石破氏にも「軍事おたく」と評される、キャッチーな情報があった。しかし、やはり「軍事」にはタフなイメージがつきまとう。かつて麻生太郎氏は「マンガ好き」として知られ、東京・秋葉原の街頭で「おたくのみなさん」と呼びかけたこともあった。「マンガ好き」は堅苦しくないキャラクターを連想しやすいが、「ミリタリー好き」はそうでもないだろう。岸田氏にはこういった趣味の情報は少なかった気がする。

総裁選が本格化してからも、菅氏はやわらかいイメージを押し出した。たとえば、インターネット動画サイト「ニコニコ動画」上での討論会では、ネット上での愛称「ガースー」を「嫌な気なんて全然しない」と述べて公認した。「ガースー」とは菅の読みをひっくり返したものだが、もともとは日本テレビ放送網のプロデューサーだった菅賢治氏の別名だ。バラエティー番組『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』の制作で知られた。

割とやんちゃなイメージを帯びているうえ、名前の読みをひっくり返すという、いかにもテレビ業界的な命名でもあり、ややからかい気味の愛称だ。しかし、菅氏は一向に嫌うそぶりを見せず、「世の中の見方」をおうように受け入れた。菅賢治氏には「菅ちゃん」という愛称もあり、こちらも菅氏に受け継がれている。親しみを示す「ちゃん」付けで呼ばれることは、人気投票の際にはプラスの要素になってくる。

石破氏や岸田氏の場合は「ちゃん」付けが一般的ではないようだ。威圧的な雰囲気を持つ石破氏、生真面目なエリート感を漂わせる岸田氏。どちらも「ちゃん」で呼ぶのがためらわれる。つまり、少し軽くみられる程度のポジションが「ちゃん」付けには向く。一国の指導者を軽んじるわけではないが、変化を好まない空気が支配的な場合、「俺についてこい」的な強いリーダー像や庶民感覚とずれた「上級国民」感は、集票の妨げになるだろう。その点、菅氏の「ガースー扱い」はいい意味で世間との距離を縮める効果があっただろう。

過去に『まずは「ドジな話」をしなさい』という本を書いた際、第一印象をやわらげるには、失敗談を明かすことが効果的だと説いた。失敗を自ら笑える人は度量の深さを感じさせる。菅氏は「加藤の乱」をはじめ、政界でのつまずきが少なくない。大学時代のアルバイト暮らしのような苦労話も豊富だ。菅氏の「非世襲政治家」「非エリート」のイメージは、メディアを通じて拡散され、圧勝につながったといえる。対人コミュニケーションにあたって、自己開示は距離を縮めるうえで必須ともいえる。ビジネストークでも重要なこの点を菅氏は今回の総裁選で証明した。

菅氏の立ち居振る舞いやしぐさ、表情には、どこかこなれないたどたどしさがにじむ。洗練された印象の安倍氏とは別物と映る。ともに父親が国会議員で、ともに大手銀行出身の石破、岸田の両氏とも雰囲気が異なる。このいくらかあか抜けないムードは時に愛嬌(あいきょう)とも映る。隙を見せない「優秀感」を押し出す石破、岸田の両氏との違いだ。

はにかんだような表情を見せることも、元号の発表直後から「菅ちゃん、かわいい」といわれる下地になっている。この「かわいい」という評価に国民の警戒心はみえない。むしろ、「ちょっとぐらいいじってもいいかも」といった親しみすらうかがえる。こうしたソフトイメージの積み重ねが「安倍の次は菅」の空気を呼び込んだといえなくもないだろう。菅氏を擁立した自民党国会議員たちは次の選挙を視野に入れて、有権者の支持を受け止めやすい総裁を選ぼうとしたはずだからだ。

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