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更年期の悩み セックスレスに宋美玄先生がアドバイス

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知っているようで知らない自分の体のこと。女性ホルモンが減少する40代50代は自分の体の変化にとまどうこともあります。気になる性の悩みや体の変化について、産婦人科医でもあり、性科学者でもある宋美玄さんがフラットに語ります。テーマは「更年期のセックス」です。

更年期にはセックスも変わる

更年期になるとセックスも変わってきます。女性ホルモンの減少とともに更年期には体にさまざまな変化が起こりますが、ほてりや発汗、手足の冷え、めまいといった症状とともに、女性器では膣(ちつ)粘膜が薄くなったり、膣が萎縮したり、潤いが不足したり、摩擦に弱くなったり。乾燥で女性器周辺がかゆくなるといった症状を感じる人もいます。それにともなって40代後半ぐらいから性交渉の際に痛みを感じるようになり、以前のように快感が得られなくなったという訴えが婦人科でもよく聞かれます。この時期に、「痛いからセックスはしたくない」という気持ちになる人もいます。

セックスで女性ホルモンが増える?

「女性は40代で性欲が強くなるというのは本当ですか?」と聞かれることがありますが、医学的に見ると、年齢とともに女性ホルモンが減少し、性的な欲求は減っていくのが自然です。男性も同じ。ただ男性ホルモンの減少カーブは女性ホルモンほど劇的ではないので、性欲も女性より緩やかに減っていきます。世の中には「セックスすると女性ホルモンが活性化する」という謎の思い込みがあるようですが、それは間違った情報だと声を大にして言いたいです。セックスしてもしなくても、女性ホルモンの分泌量は変わりません。

40代50代にはセックスレスという悩みもありますが、性欲が減っていくことを考えると、本心ではあまり気にならない人もいるのだと思います。ただ、そこは「求める」「求められる」という兼ね合いなので、性交渉の機会が減れば、自分の性欲を持て余すこともあるかもしれません。

40代になるとマスターベーションで自分の性欲をマネジメントすることに慣れている女性もいて、そういう方法を知っていれば性欲自体は発散できると思います。一方でオーガズムへの欲求ではなく、「人と触れ合いたい」「人肌が恋しい」という感覚は、女性ホルモンとは関係なく、年齢とともに減ってくるというわけではありません。

「セックスレスの悩み」、その正体は?

一般に「性欲」というと、その2つをひっくるめてしまうけれど、「触れ合いたい」「ぬくもりがほしい」のか、「感じたい」「いきたい」という性欲なのか。これを機に自己分析してみてもいいかもしれません。カウンセリングに来られる患者さんともよく、そういう話をしています。どうすれば自分が満足するのか、自分はどういう性的嗜好なのか。自分の性欲を掘り下げて、自己マネジメントをしてみることも解決の糸口になります。

「触れ合いたい」ということであれば、パートナーとの会話を楽しみながら、ボディータッチから始めるのもいいと思います。セックスはコミュニケーションの一つですから、会話がなくては成り立ちません。いきなり「セックスしなくちゃ」と思い込まず、軽いスキンシップを増やしてみてはどうでしょうか。

痛みはホルモン補充で解決できます

患者さんの性に関する相談で結構多いのは、新しいパートナーができたときの悩みです。ずっと同じパートナーであれば、年齢とともに変わってくる自分の変化も自然に受け止められますが、ご縁があってパートナーが変わったとき、まあ盛り上がっているときですね。若いときと同じようにセックスの頻度が増すと、乾燥と摩擦によって痛みが生じます。でも、痛いからといって断りづらい。「なんとか相手の欲求に応じたい」という悩みで診察に来られる方も結構多いです。

このケースには2パターンあり、1つは自分にも欲求があるけれど性交痛を感じる場合。これは女性ホルモンを補充すると改善されます。萎縮性膣炎にはホルモン補充療法(HRT)が効果的です。全身に作用するHRTの経口剤や貼付剤、ジェル剤でも効果がありますし、局所的に作用する膣用のタブレット錠や軟こうなどで痛みを緩和することもできます。あとは適応外使用になりますが、シアリス(一般名タダラフィル)というED(勃起障害)治療薬を少量使うと症状が改善するというデータもあります。女性ホルモンの減少で痛みがあるときは、このいずれかでほとんどが解決しますね。

自分の気持ちを第一に

もう1つは、そもそも自分はあまりセックスがしたくないという場合。そのときは、「治療してまで頑張る意味はあるの?」ということは考えてもらっています。

セックスセラピーは、「相手を満足させる」「相手を受け入れる」ということが最終目標ではありません。あくまで本人が満たされるということが大事。なので、そこをまず考えて、本人がもっと楽しみたいのであれば薬で治療することはお勧めです。

そうではなく、「自分がしたいわけではないけど、相手が納得しないから」であれば、潜在的なモラハラやドメスティックバイオレンス(DV)の可能性もあります。今でも性の相手は「妻の役目」と思っている向きもあるかもしれませんが、そこは自分の気持ちを第一に考えてみてください。

もっと言えば、40代は望まぬ妊娠をする人も意外と多いのです。40歳以上の中絶件数も少なくないのが現状です。もう40代だからと油断しないで、妊娠を望まないのであれば閉経するまでは避妊をしましょう。

更年期をきっかけに体と向き合う

セックスレスは本来、治療するというより、予防するものと考えていたほうがいいかもしれません。男でも女でも、断られると心が折れることがありますから。「無理!」と一方的に拒否するのではなく、「応えたい気持ちはあるんだけど、最近痛みがあって……」と、自分の体の状態や気持ちを言葉できちんと伝えることが大切です。逆にパートナーの要求が過剰な場合も、更年期を一つのきっかけに自分の体の状態を伝えて考え直してもらう機会にできるといいですね。

宋美玄
産婦人科専門医、性科学者、丸の内の森レディースクリニック院長。1976年、兵庫県神戸市生まれ。2001年に大阪大学医学部を卒業、大阪大学医学部付属病院産婦人科に入局。周産期医療を中心に産婦人科医療に携わる。University College Of London Hospitalに留学し胎児超音波を学ぶ。12年1月に第1子を出産。『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』(ブックマン社)、『産婦人科医ママの妊娠・出産パーフェクトBOOK』(メタモル出版)、『産婦人科医宋美玄先生が娘に伝えたい 性の話』(小学館)など著書多数。女性の性、妊娠、出産について積極的な啓蒙活動に励んでいる。

(取材・文 竹下順子=日経ARIA編集部)

[日経ARIA 2020年5月27日付の掲載記事を基に再構成]

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