久しぶりの演技 やっぱり役者って面白い(井上芳雄)第77回

日経エンタテインメント!

いずれにしても真綾さんとは、人との接し方が似ているというか、一緒にいてストレスを感じません。堂本光一君と似ているというか、お互いにキャラクターは全然違うのだけど、同い年なのと、ある種の価値観が近いのかな。だから何をやっていても、やりやすさしかなくて、再演を重ねるほどに息が合ってきているように感じます。きょうはどんな調子で、どういう勢いで、どういうテンポでやるとか、あまり会話をしなくても、お互いの状態が何となく分かるようになってきた気がします。

今回は新しい試みで、配信限定のトーク&ソングイベントを実施しました。9月5日のシアタークリエでの公演終了後に、舞台から40分くらい配信したのですが、これも真綾さんとだからできたイベントだと思います。台本はなく、歌う曲だけ決まっていて、最初に20分くらい話してくださいと言われただけでした。真綾さんはおしゃべりも上手なので、どう転んでも大丈夫という安心感があったし、話し始めると、舞台上の箱や手紙などが実際どうなっているか種明かしをするという流れになって、配信だから見られる映像になったと思います。その後の公演では、休憩中に舞台の前にお客さまの人だかりができて、「この人形が毎日違う形をしているんだ」とか話されていたので、配信を見てくれたんだ、と思ってうれしかったですね。

話が進むにつれてお客さまの笑い声も

『ダディ~』は9月4日にシアタークリエから始まって、14日に大阪公演が終わり、19日から名古屋、24日から東京に戻っての公演となります。東宝としては、劇場再開後に東京以外で上演する初めての演劇作品です。演劇はその町へ行かないと見てもらえないので、その意味で公演再開の第一歩ともなりました。

『ダディ~』はどこの町で上演しても、お客さまの反応にそれほど差がないので、きっと万人が楽しめるのでしょう。今回は東京も大阪もそうでしたが、最初はお客さまも声を出してはいけないと思って、笑い声が少ないんです。けど、僕たちも面白がってほしいし、笑っていいんですよという感じでやっていると、話が進むにつれてお客さまの反応がすごく良くなります。やりがいがあるし、演劇っていいなと思いました。

僕にとっては、劇場が再開してからショーやコンサートの形式が続いていたので、最初から最後まで舞台で衣装を着て役を演じたのは久しぶり。春に公演中止となった『桜の園』の舞台稽古以来でしょうか。セリフを覚えているかなとか不安もあったのですが、実際にやってみると、手紙をこんなふうに読めるようになったとか、この歌に対して今こんなふうに感じるんだとか、得るものが多い公演になりました。やっぱり役者ってすごく面白いとあらためて感じています。

井上芳雄
1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第78回は2020年10月3日(土)の予定です。


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