すでに様々なアウトプットがあります。「アナザーステップ・プロジェクト」(Another Steps Project)は、普段の生活のなかで簡単に継続的に運動量をふやすことが可能なタッチポイントとして、駅などの階段にフォーカスしました。アイデアのパターンをいくつか作り出して、電通のクリエーティブチームとともに開発を続けています。「IoTデジタル階段」は1段上がるごとに、踊り場の壁面にコンテンツが代わる代わる映し出される仕掛けです。例えば、毎日のニュースや天気予報などが想定されます。若い世代向けのアイデアには「4コマ漫画階段」があります。階段の昇降数に応じて、次に読むことができるコンテンツが開放されるように仕組めば、インセンティブが高まるでしょう。上りたくなる気分を高める「トリックアート階段」のアイデアも出ました。

他にもユニークなアイデアがたくさん出ています。はくことでメタボを視覚で確認し、予防する効果を狙うアンダーウエア「アラートパンツ」。入院患者向けに、病院を「舞台」として探索を体験する「演劇クエスト・市大病院編『冒険の書』」。映画館を啓発の場として活用する未病シネアド「LifeStyle Pandemic」……。いずれもこれから大きく育つ「発想のタネ」になることでしょう。

コミュニケーションの重要性

ストリート・メディカルの成功の鍵は、患者と医者、行政と市民、あるいは企業と生活者がいかにコミュニケーションを取るかにあります。それは、人々に行動を促す「広告」の世界と親和性が高いのです。本書の後半には「広告医学」に詳しい元電通コピーライター・コンセプターの梅田悟司氏と著者との対談が収録されています。

人と人とのコミュニケーションは、人を対象として考えてしまうと、自分と他人がいて、その他人とのやりとりのなかでコミュニケーションが行われていくと考えがちです。しかし、実際に「Aをしてください」といったら、相手が「じゃあ、Aをします」ということはほとんどあり得ません。ですから、そこでどのようにすれば行動してもらえるのか、「Aをしてくださいね」ではなく、自然に相手がAをしたくなるような投げかけ、動機付けをどのようにしていくのかということを、我々は常に考えています。
 そこで大事になってくるのが、メーカーではなく生活者を主体として考えたときに、そういった働きかけがいちばん効果を生むのかです。仮にこれを医療の領域で考えるなら、医療の中心に医師や医療機関を置くのではなく、受益者である患者の側を中心にする。そして、患者が自分で考えたかのごとく行動してもらうということが大事になるはずです。
(第5章 対談 社会に健康をインストールする 199ページ)

 巻末に掲げられたYCU―CDCのステートメント(宣言)はストリート・メディカルについて「新しい医療という方法によって、誰もが、よりよい人生を獲得できる世界を創るための絶え間なく続くムーブメントである」と締めくくっています。本書が、健康な人にとっても病気を抱えている人にとっても、医療をより身近な存在として見つめ直すきっかけになれば幸いです。

◆編集者からコメント 日本経済新聞出版・網野一憲

初めて武部氏とお会いしたのは2011年。電通と博報堂が主催する産学協同プロジェクト「未来デザインラボ」の場でした。まだ医学部生だった彼が「広告医学」というコンセプトで応募、入賞したことがきっかけです。

その後、彼は医師として活躍する一方で(ウェブで「武部貴則」と検索してみてください)、そのコンセプトを「ストリート・メディカル」に拡張しながら実現を進め、2018年には、実践の場としてYCU-CDCを設立します。

いわゆるメタボの私にとって、医師と患者のコミュニケーションの工夫により病が深刻化する前にできることがたくさんあるという彼の主張はとても“刺さる”ものでした。その活動を書籍化することで多くの人が救われるのではないかと思い実現したのが本書です。

一日に数百冊が世に出るとされる新刊書籍の中で、本当に「読む価値がある本」は何か。「若手リーダーに贈る教科書」では、書籍づくりの第一線に立つ出版社の編集者が20~30代のリーダーに今読んでほしい自社刊行本の「イチオシ」を紹介します。

治療では 遅すぎる。 ひとびとの生活をデザインする「新しい医療」の再定義

著者 : 武部 貴則
出版 : 日本経済新聞出版
価格 : 1,980 円(税込み)